勇者復活、女神との再会
……ああ、やっぱり、俺は死んだのか。
もう、これで二度目だな。さすがに次は異世界転生か、それとも地獄行きか……。
感覚は霞の中に沈み、視界は漆黒の闇に包まれていた。時間の流れすら曖昧で、自分が息をしているのかどうかも分からない。ただ、心の奥底からわき上がる後悔だけが、胸を締めつけていた。
――アリサ、ごめんな。
――広……お前にも、謝らなきゃな。
そのときだった。
暗闇の中心に、ひと筋の光が生まれた。まるで夜明けのように、ゆっくりと、けれど確実に広がっていく。視界が白に染まり、やがてそこは、雲の上のような、何もかもが眩しすぎるほど光に満ちた空間へと変わっていた。
「ここは……天界か?」
独り言のように呟いた声は、空に吸い込まれるように消えた。
そして、その神々しい光の中に、彼女は現れた。
銀の髪が風もないのにふわりと舞い、透き通るような肌には神聖な光が宿っている。宙に浮かぶその姿は、まさに“女神”と呼ぶにふさわしい美しさを放っていた。
――が、俺は眉をひそめる。
「おい……またお前かよ」
女神は、俺の顔を見てうっすらと笑い、まるで面倒な事に巻き込まれたと言いたげに肩をすくめた。
「あら、せっかく現世に帰してあげたのに……仲間を庇って自害するなんて、ほんと――“勇者”ってのは面倒ね」
「面倒でもなんでも、アリサが死ぬよりマシだったんだよ。……それより、アリサは無事なんだろうな!?」
俺の叫びに、女神はふうとため息をつく。
「生きてるわよ。あなたの仇をとるために、異世界からの侵入者を倒したらしいわ」
そして女神は、手を振るとふわりと雲を呼び出し、その上に腰かけて頬杖をついた。
「さて、ユキヒロ。選びなさい。“あの世”に行くか、“異世界に転生”するか――まあ、あの世界はもう懲り懲りかもしれないけどね?」
「そりゃもう……できればこのまま、眠りにつきたいくらいだけどな……」
そのとき、不意に女神が小さく首を傾げた。まるで、見えない何かに気づいたように。
「……ねぇ、あの異世界から来た“あれ”、どうやってあなたの世界に来たのかしら? 私の知らない手段なんて、あるわけ……」
ぶつぶつと独り言を漏らす女神が、ふいに立ち上がる。そして、俺の額に手をかざすと、柔らかな光が周囲に広がっていく。
「さようなら、勇者。あの世で、せいぜいゆっくり休んで――」
――そのときだった。
聞こえた。
広の声だ。泣き叫ぶ、魂の奥から震えるような声。続いて、アリサの静かな、だけど必死な呼びかけが――。
心の奥が、何か熱いもので満たされる。
「……叶うなら……もう一度、生きてみたかったな」
その一言を呟いた瞬間――女神の目が、見開かれた。
「な、なに……? 何をしたの、あなた!?」
「は? いや、俺、何も――」
『ユキヒロ、ごめん……これを使わせてもらったわ。魔王が持ってた、“命の宝玉”を』
アリサの声が、天から響く。
その瞬間、女神は絶叫した。
「ありえない! あれは……天界の法則すら無視する禁忌の遺物! そんなの使ったら……大天使様に、怒られるぅぅぅぅッ!!」
顔をぐしゃぐしゃにして頭を抱える女神を横目に、俺は思わず笑った。
「アリサ……おい、胡散臭い女神。ざまぁみろ」
「テメェ……! 次会った時は地獄に突き落としてやるぅぅぅ!!」
※
次の瞬間、光の世界は音を立てて崩れ――
気づけば、視界には見慣れた天井があった。
「ユキヒロっ!」
飛び込んできたのは、泣き顔の広だった。乱れた髪もそのままに、彼女は勢いよく俺にしがみついてくる。
「この、馬鹿ユキヒロ……っ、ほんとにもう……!」
「悪い、広……心配、かけたな……だから、そろそろ離して――」
「離さない。しばらく、絶対に……離れないから!」
そのとき、浴室の方からそっと扉が開く音がした。
振り向けば、濡れた髪をタオルで拭きながら、アリサが立っていた。目元には涙の跡があり、それでも微笑む彼女の顔は――どこまでも優しかった。
「アリサ……」
「おかえり、ユキヒロ」
「ああ……ただいま」
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