幻影と現実の狭間
ゲートの先に足を踏み入れた俺とアリサは、目の前に広がる光景に言葉を失った。
「ここって……」
アリサの瞳が震え、潤む。
視界に広がるのは、整備もされていない土の道。高層ビルの姿など当然なく、有象無象の建物すらない。ただどこまでも続く緑の野原。そして、その先に見覚えのある――あの王国の城壁。
「元の世界に……戻ってきちゃったんだ!」
アリサは目をキラキラと輝かせながら、杖を片手に野原を駆け回る。その姿は、まるで子供のようにはしゃいでいた。
「どうしてだ……なぜゲートの先に異世界が?」
混乱の中、俺の脳裏に8年間の記憶がよぎる。仲間と旅し、幾度も命を賭けた日々。なのに――。
なぜだ……懐かしさも、安堵も、何も感じない。
「ユキヒロ? おーい? どうしたの?」
アリサの声に、俺はようやく確信する。
「フッ……そういうことか」
「へっ?」
俺はアリサの手を取り、胸元へと引き寄せる。その距離の近さに、アリサが目を丸くする。
「これは……夢だ。……随分と質の悪い幻想を見せてくれるじゃねぇか」
アイテムボックスから短剣を抜き、周囲に漂う魔力の空間を真一文字に切り裂く。
――バリンッ。
鏡が砕けるような音と共に、空間が崩壊する。目を開けると、そこは闇に包まれた洞窟だった。
「たまにいたよな、夢を見せるタイプの精霊か、魔物か……どっちにしろ雑な幻覚だ」
俺が隣を見ると、アリサはまだ頬を赤らめながら目をこすっていた。
「ユキヒロ……さっき、私のこと……抱きしめてくれたよね?」
「ん? なんか言ったか?」
「……もういいっ!」
ぷいっとそっぽを向くアリサに、俺は苦笑しつつ立ち上がる。
「それより、どうしてあの世界が幻だって気づいたの?」
「簡単だ。あの世界には微弱な魔力が充満していた。普通の世界には、あんな濃い魔力なんてあるはずがない。つまり幻影魔法ってわけだ」
「……分かるもんなの? それ……」
呆れ顔のアリサをよそに、俺は真っ暗な空間に広がる一本の通路を睨む。
「とにかく、進むしかねぇな。このダンジョンを抜けない限り、帰れねぇだろ?」
「ふふっ、そうね」
二人並んで歩き出したその瞬間、奥から無数の狼型魔物たちが咆哮と共に飛びかかってきた。
「来たな!」
俺は剣を抜き、旋風のように魔物の間を駆ける。一閃、二閃、そして三閃――。
アリサの援護魔法が閃光のように走り、魔物たちは次々と倒れていく。
※
数多の魔物を退け、奥へ進む俺たちの前に、無の空間が広がる。空間の中央には、一枚の石版が浮かんでいた。
「何これ……?」
アリサが興味深そうに石版へ近づく。その瞬間、背後の道が崩れ、閉ざされる。
「閉じ込められた……か?」
足元から、巨大な魔法陣が浮かび上がる。眩い光と同時に、空間は灼熱の炎に包まれ、無数の魔力の流れが天井へと渦を巻く。
そこから現れたのは――天を衝くような紅きドラゴン。
「っ……これは、強敵だね」
アリサが顔を引き締め、杖を構える。
「ああ。でも大丈夫だ」
俺は剣を構え、すでに炎の中を睨みつけていた。
「――俺たちは、もう何度も地獄を越えてきた」
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