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異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!  作者: 沢田美


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私はあなたの帰りを待っているから

「アリサ……」


「ユキヒロ、考えるのはあと。今は……あのゲートを止めないと」


 アリサはきゅっと杖を握りしめ、空に浮かぶ赤い裂け目を見上げた。


「アリサ、あのゲート……開くまで、どれくらい猶予がある?」


 俺の問いに、アリサの片目が淡い緑色に輝く。魔力感知のスキルが発動する合図だ。


「……この魔力の濃さ……ざっと、あと一時間……? 一時間しかないの!? ユキヒロ、急がないと!」


 焦る彼女とは対照的に、俺は静かに頷くだけだった。


「そうだな」


「なんでそんな冷静でいられるの!? 一時間って、下手すれば世界がひっくり返るかもしれないのに!」


「……かもな。でも、まだ“一時間ある”ってわかったことが、少し安心したのかもしれない」


「ユキヒロ、それ、落ち着いてるんじゃなくて、ちょっとズレてるわよ……」


 アリサは小さくため息をつき、すぐに浮遊魔法を展開する。


「はい、ほら! いいから乗って!」


「あ、はい……」


 俺が彼女の杖の後ろに乗り込んだ、そのときだった。


 玄関のドアが開く音。


 顔を覗かせたのは、エプロン姿の広だった。


「……晩ごはんまでには、帰ってくるのよ」


 ジト目で俺たちを見上げる彼女に、俺もアリサも、思わずフッと笑みをこぼした。


「……ああ、約束するよ」


 浮遊魔法が空を切る音だけを残し、俺たちは赤く裂けた空へと向かっていった。



 ユキヒロは、昔からそうだった。


 正義感ばかり強くて、損な役回りばかり選ぶ。


 泣いてる人を見過ごせないし、困ってる人に背を向けられない。


 ――私が、一番よく知ってる。


 あのときも、あなたは私を助けてくれたんだよね。



 高校二年の春。


 アルバイト帰りの私は、駅前で数人の男に絡まれていた。


「ねぇ、ちょっとぐらい寄っていかない? 楽しいとこ、案内するからさ」


「興味ないです。それに帰らないといけないんで……」


「おいおい、つれないな。そーいうのって、男を傷つけるんだよ?」


 そう言って、男たちは私を店の裏手、シャッターの閉まった薄暗い路地へと追い込んでいく。


 冷や汗が伝う。声を上げても、通行人の足音は遠く、誰も気づいてくれない。


 ――その時だった。


 ぐっ、と男の手首を誰かが掴んだ。


「やめてくれません? この子、俺の彼女なんで」


 聞き覚えのある、だけど最近じゃ少し声が低くなったその声。


 そこにいたのは――ユキヒロだった。


「……ユキヒロくん?」


 彼は昔、どこか陰のある少年だった。中学時代はほとんど口もきいたことがなかった。


 なのに、今は目の前で堂々と、私を守ろうとしてくれている。


「あぁん? なんだよ、てめぇ。彼氏だぁ? 嘘こいてんじゃねぇよ!」


「そう思うなら、それでもいいけど。俺はこの子を連れて行く。文句ある?」


 その言葉と同時に、ユキヒロは私の手を掴み、その場から走り出した。


 走る息遣い。汗ばむ手。乱れる心臓の鼓動。


 それが、私とユキヒロの距離が変わった瞬間だった。



 それから、ユキヒロは何度も私を助けてくれた。


 ゴミ箱に捨てられた靴を、何も言わず一緒に探してくれた。


 机に書かれた落書きを、無言で消してくれた。


 誰も声をかけてこなかった私の“痛み”に、彼だけは黙って寄り添ってくれた。


 ……不器用で、素直じゃなくて、でも誰よりも優しい。


 気づいた時には、私はもう彼のことを――


 

 キッチンのヤカンが、甲高く鳴く。


 私は現実に引き戻されると、火を止め、カップ麺のふたを開けた。


「……今日はこれで我慢、か」


 ユキヒロ、アリサ。


 無事に、帰ってきてね。


 私、ちゃんと晩ごはん用意して待ってるから。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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