さらば異世界、ただいま現実
もし異世界から現実世界に帰れるとしたら――
それでも、帰らないって言うやつがいるのか?
俺なら迷わず、帰る。帰るに決まってるだろうが!
※
「グアアアアア……ば、馬鹿な……この我が……人間ごときに……!」
魔王城最深部、血塗られた玉座の間。
膝をついた魔王が、地に伏しながらうめく。
その全身はすでに深い裂傷に覆われ、黒い血が石床を濡らしていた。
「今だ、ユキヒロ! トドメを刺せ!」
戦士ガルドの叫びに、俺は応える。
仲間たちが命を懸けて生んだ一瞬の隙――その機を逃すものか。
「これで……終わりだッ!」
地を蹴り、一直線に魔王へと踏み込む。
仲間の想い、犠牲になった人々の無念、そして何より、俺自身の願い。
すべてを剣に乗せて――振り下ろす。
魔王の巨躯が、轟音と共に真っ二つに裂けた。
飛び散る血飛沫、砕けた鱗。
そして、その全てが灰となり、崩れ落ちる。
その場に残ったのは、深紅の魔石ただひとつ。
手のひらでそれを掴んだ瞬間、実感がこみ上げてくる。
「終わった……これで、本当に……!」
八年。
長すぎるほど長かった、異世界での冒険と戦いが、今ここで幕を閉じた。
「やったな、ユキヒロ!」
「私たち、やり遂げたんだね!」
ガルド、アリサ、ジン、カイ。
誰もが満身創痍のまま駆け寄り、勝利の喜びを分かち合う。
その顔には涙と笑みが混ざっていた。
だが、俺はその輪に加わらない。
心の中で、静かに、確信する。
(これで……やっと帰れる)
「おい、ユキヒロ? お前が決めた戦いだろ? もっとはしゃげよ!」
「そうよ、あなたがいなければ、私たちはここまで来られなかった!」
ああ、分かってる。分かってるさ。
――でも、俺にとっての“終わり”は、ここじゃない。
「俺は……帰れるんだああああッ!」
抑えてきた感情が、咆哮として魔王城に響き渡る。
仲間たちはその叫びを、「平和な日々に帰れる」という意味で受け取ったようだ。
だが、俺にとっては違う。
これは――本当に、“元の世界”に帰れる瞬間なのだ。
そのとき。
ズシン……と魔王城が不気味に揺れた。
「な、なんだ!? 崩れるのか!?」
「急げ! 早く脱出を!」
仲間たちは出口へと駆け出す。
俺も遅れて走り出す。けれど、どこか他人事のようだった。
(俺だけが帰れる。……あの世界へ)
その瞬間、俺の体が白い光に包まれた。
眩しさに視界を奪われながらも、確信する。
これは、女神との約束。
魔王を討てば元の世界へ戻す――その報酬。
薄れゆく意識の中で、仲間たちの声が遠ざかっていく。
そして俺は、異世界からの旅路に、別れを告げた。
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