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さらば異世界、ただいま現実

もし異世界から現実世界に帰れるとしたら――

 それでも、帰らないって言うやつがいるのか?


 俺なら迷わず、帰る。帰るに決まってるだろうが!



「グアアアアア……ば、馬鹿な……この我が……人間ごときに……!」


 魔王城最深部、血塗られた玉座の間。

 膝をついた魔王が、地に伏しながらうめく。

 その全身はすでに深い裂傷に覆われ、黒い血が石床を濡らしていた。


「今だ、ユキヒロ! トドメを刺せ!」


 戦士ガルドの叫びに、俺は応える。

 仲間たちが命を懸けて生んだ一瞬の隙――その機を逃すものか。


「これで……終わりだッ!」


 地を蹴り、一直線に魔王へと踏み込む。

 仲間の想い、犠牲になった人々の無念、そして何より、俺自身の願い。

 すべてを剣に乗せて――振り下ろす。


 魔王の巨躯が、轟音と共に真っ二つに裂けた。

 飛び散る血飛沫、砕けた鱗。

 そして、その全てが灰となり、崩れ落ちる。


 その場に残ったのは、深紅の魔石ただひとつ。

 手のひらでそれを掴んだ瞬間、実感がこみ上げてくる。


「終わった……これで、本当に……!」


 八年。

 長すぎるほど長かった、異世界での冒険と戦いが、今ここで幕を閉じた。


「やったな、ユキヒロ!」


「私たち、やり遂げたんだね!」


 ガルド、アリサ、ジン、カイ。

 誰もが満身創痍のまま駆け寄り、勝利の喜びを分かち合う。


 その顔には涙と笑みが混ざっていた。


 だが、俺はその輪に加わらない。


 心の中で、静かに、確信する。


(これで……やっと帰れる)


「おい、ユキヒロ? お前が決めた戦いだろ? もっとはしゃげよ!」


「そうよ、あなたがいなければ、私たちはここまで来られなかった!」


 ああ、分かってる。分かってるさ。


 ――でも、俺にとっての“終わり”は、ここじゃない。


「俺は……帰れるんだああああッ!」


 抑えてきた感情が、咆哮として魔王城に響き渡る。


 仲間たちはその叫びを、「平和な日々に帰れる」という意味で受け取ったようだ。

 だが、俺にとっては違う。

 これは――本当に、“元の世界”に帰れる瞬間なのだ。


 そのとき。


 ズシン……と魔王城が不気味に揺れた。


「な、なんだ!? 崩れるのか!?」


「急げ! 早く脱出を!」


 仲間たちは出口へと駆け出す。

 俺も遅れて走り出す。けれど、どこか他人事のようだった。


(俺だけが帰れる。……あの世界へ)


 その瞬間、俺の体が白い光に包まれた。

 眩しさに視界を奪われながらも、確信する。


 これは、女神との約束。

 魔王を討てば元の世界へ戻す――その報酬。


 薄れゆく意識の中で、仲間たちの声が遠ざかっていく。


 そして俺は、異世界からの旅路に、別れを告げた。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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