異端ポイント
「言葉」これは我々が普段一般的に発している物だ。人々はそれを脳内で考え、ちぐはぐな単語から言葉を発していく、しかし…それらには実体がある。例えばありがとう、おめでとう、こんな風に暖かい言葉を投げつければ、人の傷は癒えストレスも軽減される。しかし逆にしね、クズなどの言葉はまるで鋭いナイフに刺されたかのような冷たい感覚に陥る。そう、言葉というのは人を蝕む事も癒す事も出来る両極端な物なのだ。
自己紹介がまだだったな、俺はなんの変哲もない中学二年生だ。今は学校の教室で、ホームルームが始まるまで寝たフリをしている。まぁ、俺は世間一般的には陰キャって言われる部類に入るだろう。俺がそんなことを思っていると、先生が教室に入ってきて、ホームルームを始める。「それじゃあ皆さん、朝の会を始める前に異端度チェックをタブレットで行って下さい」。俺は、溜め息をつきながらタブレットを開き異端度チェックのためのアンケートを開く、言葉に実体があるこの世界ではこんな風に「言葉」は常に監視されルールが出来ている。そしてそのルールに従わない者は異端者と呼ばれ、施設に送られる。俺がアンケートを答え終わり結果を見ると10点中7点、まぁ…ギリギリのラインだが問題ない。
その時、隣の席の遥が声を掛けてきた「ねぇねぇ、見風結果どうだった?」なんともいやらしい質問だ「別にまぁまぁだけど?」俺は素っ気なくそう答える。「ふ~ん、でも気を付けなよ?5点以下取っちゃったら指導入っちゃうんだからさ」。俺は適当に流しながら机に突っ伏する。あぁ後こいつは遥だ。佐藤遥、中学生になった俺の数少ない友達だ。よく俺に絡んでくる。そしてそれから俺は特に何もなく時間を過ごしていく。そして昼、給食の時間だ。俺は給食の時間と朝の読書の時間だけは安心出来る、だって周りのうるさい声に耳を傾けなくていいからだ。そして給食が終わってから五時間目の授業を確認すると、俺は顔をしかめた、何故なら道徳の授業だったからだ。正直、俺は道徳の授業というのが嫌いだ。人の倫理観を子供の頃からちゃんと植え付けるための授業なんだろうが、道徳をするぐらいなら体育をした方がましだろう。それにこの世界では…「それじゃあ皆さん、今回も言葉とルールについて深く考えて行きましょう」俺の思考を遮るように、先生の声が教室に響く。そう、これだから道徳は嫌なんだ。道徳だから感動する話や為になる話の授業をするかと思えば、習うのはほとんど言葉の危険性やその両極端な面、それとルールについてだ。
その時、ペアでお互いの意見について話し合う事になってしまった、俺はガクンと肩を落とし少し唸っていると。「はぁ、そんなに私と話すのが嫌?」俺はすぐ取り繕うように「そんなんじゃないけどさ、でも…ちょっとおかしいと思わないか?」俺がそう言うと遥が「なにが?」とマヌケな表情で言ってくる。「ほら、だって道徳なのに習う事はルールや言葉についてのことばっかだろ?」すると遥は少し考える素振りをした後「…まぁそうだけど、当たり前じゃない?だって言葉の扱い方とか習っておかないと、異端者みたいに汚い言葉使っちゃうしさ」俺は遥のその意見に何故か少しガッカリしながら、そこで会話を終わらせる。何故って?そんなのこれ以上会話するのがめんどくさいからだ。俺は陽キャとは違ってそんなノリに乗れる気もしないし、作れる気もしない。まぁでも、あいつらみたいなウェーイとしか言えない脳なし共みたいにはなりたくないが。そんなことを思っていると、いつの間にかチャイムが鳴り、授業は終わる。俺は急いで帰る準備をしながら連絡帳に明日の授業と準備物を描き写し、帰りの会を適当に流し聞き、帰るためそさくさと廊下を歩いていると、生徒指導室にて廊下にまで聞こえてくる説教が耳にふと入る。そうすると、教師は異常な程に怒鳴り、言葉に関する校則に違反したと思われる生徒に校則を永遠と復唱させている。俺はそれを聞いて自然と歩く足が速くなり、いち早くその場から遠ざかる。やっぱりどこか異常だ。普通校則を破った程度であんな事させるか?俺はそんな事を思いながら帰路についていると何気なくある事に気付く、道路を通っていると200m感覚で「言葉はね、正しく使う、当たり前」や「言葉の使い方やルール」などが書かれたポスターが貼られている。
俺はその事実に驚きながらも家につき。俺は冷房の聞いた部屋で炭酸ジュースとポテチを片手にゴロゴロする。「ふぅ~、やっぱ家最高!」俺が優雅に過ごしているとあるテレビのニュースに目が行く、「警察署によると今朝、言葉による暴行事件が発生したと見られ、被害者は26歳の男性であり、警察は意図的犯行の可能性を見て調査を進める、という事です。さて、続いてのニュースです。…」俺は少しそれをボーッと見つめた後ハッとしてテレビのリモコンを手に取り番組を変える。全く、人様が優雅にしてるってのに…俺はなんだか気が乗らなくなり、なにをしようか考えていると、その時妹の真美が帰ってくる。
「ただいまー!あれ?お兄ぃしかいないんだ、お母さんは?」「どうせ買い物だろ、もうちょいで帰ってくると思う」「あっそ」俺は真美とそんな会話をこなしながら、俺は真美にもこんな事を聞いてみる「なぁ、おかしいと思わないか?」すると真美は「んー?なんの事?」と呑気に言う。俺は「だからこの世界だよ、いくらなんでも言葉に敏感過ぎると思わないか?」すると、真美は考える素振りも見せず「いやまぁ、でも普通でしょ。言葉は危険な物にも成るって先生も言ってたしね」俺は真美のそんな答えにガッカリしながら「ふ~ん」と適当に返す。
朝、俺は起きると軽く支度をしてから苦手なブラックコーヒーを飲み顔を歪め、いつものように登校していると、交差点にて警察による異端者チェックが行われていた。俺はゲッと思い警察を避けて遠回りしようとすると、近くにいた警官に「ちょっと君、いいかな?」俺は心の中で深い溜め息をつき「なんですか?」と聞き返す「これから一週間異端者摘発デーでしょ?だからここら辺で検査してるんだけど…協力お願い出来る?」警察官はそんな事を真顔で言ってのける、俺は嫌々ながら「えぇ…まぁいいですけど」と答えるしかない。俺は学生証を出すと警察官は学生証についているQRコードを読み取り、これまでの俺の異端者チェックの記録をさらっと読んでいく、俺の心臓はまるで時限爆弾のようにドクンッ、ドクンッと自分でも分かる程に鳴り響いていた。警察官は少しまゆをひそめ「君…アンケートの結果7点ってギリギリだけど…?」と言うと警察官は軽く顔を上げて探るような目線を向けてくる。俺は全身から汗が吹き出すのが分かる、しかしなんとか取り繕うと「え?あ、あぁ…実はアンケート受けた時ちょっと調子が悪くて…」俺はそう即興で考えた言い訳をなんとか言葉にして発すると、警察官は少し疑いながら「そうか、まぁ今度受ける時は万全の体調で受けてね。こっちもいちいち確認しないとだから。それに…施設に行きたくないでしょ?」俺はその言葉に少し恐怖を覚えながらなんとか抜け出すことに成功する。
しかしそんなことをしている内に時間がギリギリになってしまった。「クソッ…!」周りに聞こえないような声量でさっきの警察官に心の中で怒りをぶつけながら必死に走る。そして校門までなんとか到着すると、遥が見風に話し掛けてくる「よっ、見風遅かったけどなんかあったの?寝坊?」息を切らしながら俺は「うっさいな…異端者摘発デーだろ?だから検査されてたんだよ……ていうか、なんでお前いるんだし」すると、遥は誇らしそうに「そりゃ、だって私生活委員会だからね。朝の挨拶運動に参加するのは当たり前でしょ?」俺はだれていたのもあって「あーはいはい」と適当に返事してから靴から上履きに着替え、教室に向かっていく。ギリギリ教室に着くと、それからすぐ後に先生が教室に入ってきて「えぇ今日は、一週間前から言っていたように市役所に言ってそれぞれ別れて調べ物をしてもらいます」俺は顔を歪めるが、よく考えてみると、これは異端者や言葉について調べられるんじゃないか?それにそしたら衝撃の真実を知れるかも…と俺は馬鹿な事を考えながら少し心を踊らせていた。
「ねぇ見風、一緒に調べ物しない?」その時、遥がそんな事を言ってくるが俺は「あぁごめん、俺ちょっと友達と約束してて…」そう言い逃れようとすると「えっ?見風って私以外に友達いたんだ?」そんな失礼な事を言ってくる。俺は少し傷つきながら「居るに決まってるだろ…俺のことバカにしてるのか」と少し強めに言い返す。まぁ、実際居ないが。「あはは、ごめんごめん。でも私以外と話してる所とか見たことなかったからさ…」俺はその遥の言葉に少し胸を抉られる。そしてついに市役所への訪問していき、広場にて先生がクラス全員を「えぇ、これから皆一人一人別れて各自興味がある物を調べてもらいます。それじゃあ三十分後もう一度ここに集合して下さい」それから先生の話が終わると見風はすぐ立ち上がってから…市役所を徘徊していた。調べるって言っても、どんな風に調べればいいんだ…。とそんな事を思いながら歩いていると「君、丘竹中学校の生徒さんかな?」と市役所の職員に声を掛けられたので「まぁ、そうですけど?」と言うと職員はにっこり笑って「事情は聞いてるよ、なにか調べ物をしてるんだろ?なら僕に聞いてみてくれ、大体のことは知ってると思うからね」と言われたので少し躊躇しながらも「えっと…異端者の事とかを調べたいんですけど。」すると、一瞬職員の目が鋭くなった気がする。「ん?あぁ、なら二階の公共図書室にあるはずだけど…なんでそんな事が知りたいんだい?」職員は少し問いただすような口調で問いかけてくる。俺は警察官の時にも感じたような感覚になる。「えっと…」言葉に少し詰まっていると「あっ、見風じゃん!なんでこんな所いるの?」その時遥が見風に駆け寄ってくる。「もー!友達と一緒に調べ物してるんじゃなかったの?」俺は少し安堵し「友達とはさっき別れたんだよ、それより二階行くぞ」強引に遥を引っ張っていく。意外にも遥は抵抗する素振りを見せなかった。「はぁ…はぁ、ちょ、いきなり引っ張らないでよ!」俺は遥のそんな文句を聞き流しながら、図書館を探していく。遥も俺に黙ってついてきてるようだ。
その時、俺はやっと図書館という看板を見つけ、ドアを開けると「おっきい…」遥は自然とそう呟く、無理もないだろう。図書館はとても広い、多分俺らの教室の30倍はあるんじゃないか?俺ら以外にいるクラスメイトになるべく見つからないように、ひっそりと図書館のさらに奥へと向かっていく「ねぇ、そろそろなんでここに来たのか教えてよ」そんな遥の問いに、俺は今さら隠す必要もないか。と思い「異端者の事について調べに来たんだよ」と打ち明ける。すると、遥は少し不思議のような戸惑ったような表情になり「異端者?」と繰り返した後「異端者って、施設に送られる人のことでしょ?なんでそんな人たちのこと…」遥は少し不安そうな瞳で俺に真っ直ぐ向き、そう尋ねる。「まぁいいから、さっさとついてこい」俺はそうはぐらかした後、さらに奥に入っていく。どれもこれも埃ばかりだ、流石にこんな大きな図書館だと、手入れも行き届いてないのだろう。とその時、俺はある本棚を見つける。そこには異端者やある種の日記?のような物があった。俺はまず日記から見ていく、遥も覗いてくる。《20xx年4月11日。実験結果、僕は実験所の職員をしている。今日も、言葉に実体があると思い込ませた場合、しねやありがとうなどの言葉を掛けられると痛みや癒しなどの感覚が作用するかの実験を行っている。所謂認知バイアス、という奴だろう。今日の実験により数十名へ思い込ませる事に成功した。これは大きい成果だ、責任者によるとこれからどんどん規模を広げていくらしい。》日付は数十年前の物だ。俺は少し驚きながら、遥に聞く「なぁ、これ…本当だと思うか?」遥は驚愕、焦り、恐怖などが混ざりあったような表情で「え…いや、だって……そんなこと、あるわけ…」遥はいつもの活発な様子とは違い、どこか声は震え何かに恐れているようだった。「ねぇ……嘘でしょ?見風…こんなの……」遥は懇願するように、救いを求めるような声色で言う、そんな遥に俺は「俺も最初は信じられなかった。でも、よく考えてみろよ。道徳の授業だって、ポスターだって、まるで俺たちに言葉は危険だ」って植え付けようとしてるみたいだろ?それに異端者チェックだってそうだ」俺はきっぱりと言いきり、もっと他にもないか本棚を探ろうとすると。いきなり遥が俺の手を掴んできて「やめて、見風…!これ以上は……お願い、やめて…」遥は必死で俺の手を掴み、止めさせようとしてくる。そんな遥に「なんでだよ!遥、俺たちが信じてきたことが、全部仕組まれたものだったんだ。もっと奥を調べれば、もっと…」遥の手を振りほどこうとするが、遥の掴む力は想像以上に強く、俺はなんとか振りほどこうとすると、遥は「お願い…!見風が施設に送られたら、私…っ!」遥の頬には涙が伝っており、その形相から必死差が伝ってくる。
俺はハッとした。俺は、いつしか遥という存在に依存していたのだ。俺にとって遥は、数少ない、いや、唯一の心を許せる寄り所だったんだ。彼女の明るさと、その絡みも、俺にとってはこの言葉に支配された日常の唯一の温かい光だった。そして俺は真実を追う興奮に駆られ、遥のそんな存在を、一瞬忘れてしまっていた。俺は遥の必死の形相や震えた声に涙を思い出すと、急に胸を締め付けられた。そして俺は、絞り出すように「わかった…」そう言った。確かにまだ言葉やその奥の真実についての未練は残っているが、そんな事はもうどうでもいい。今はただ、遥とのこんな関係性を大切にしていきたい。そう言うと、遥は少し安堵するように息をついた後。すぐにその表情は、俺らの間に生まれた「秘密」と、真実を知ってしまった衝撃によって、すぐ複雑なものへと変わる。遥は俺の手をぎゅっと握りしめた。その手は、まだ少し震えていたが、そこには遥の強い意思と確かな暖かさがあった。
俺らは職員にばれる前に、図書館を抜け出し、集合場所へ向かう。広場に到着すると、先生がすでに生徒をまとめ始めていた。「はぁ、まったく…どこでなにをしてたんですか!探しましたよ」先生の小言を、俺たちは何となく流し聞き、他のクラスメイトに紛れ込んだ。
帰り道、俺たちはいつも通り、他愛もない話をした。今日の給食のメニューのこと、明日のテストのこと、そして少しだけ、週末の過ごし方のこと。いつもと変わらない会話。でも、その一つ一つの言葉の裏には、誰にも打ち明けられない"真実"が隠されている。そして、そんな真実を共有しているのは、この世界で俺と遥、たった二人だけだ。
遥が、不意に俺の袖を引っ張った。「ねぇ、見風……」
「なんだよ」
「……ありがとう」
遥の声は小さかったけれど、その"ありがとう"という言葉が、まるで本当に俺の心を温めるように、優しく響いた。それは、この世界が言葉に実体があると思い込ませた、偽りのありがとうとは違う、"本物"だと、俺には確信できた。
俺は、小さく頷いた。
「……別に」
いつもの素っ気ない返事をした。だけど、心の中では、遥のその言葉に、確かに癒されている俺がいた。
この世界は、きっと、俺たちが思っていた以上に、偽りだらけだ。でも、その偽りの中で、遥と二人で、俺たちだけの「真実」と「自由」を見つけられたら、それでいい。
俺は、ポケットの中で、遥の手をぎゅっと握り返した。