3 ゴーレムを召喚する
僕が異世界から帰ってから半年ほどが経過していた。しかし相変わらずニートの僕は、パパから「いい加減に働け!」と言われた。
仕方なく僕は職業安定所に行くことにした。ハローワークである。
「私も一緒に行く」とユキもついてきた。
僕とユキは歩いて職業安定所へ向かった。すると、公園からサッカーボールが飛び出してきて、車道へ転がっていった。そのボールを追いかけて、小学生の少年が道路に出て行く。
「あっ! あの子危ない!」とユキが叫んだ。
「なあに運転手はちゃんとブレーキを踏むだろう」
「あれ? あの運転手、スマホ見ながら運転してて、道路に子供が飛び出してることに気づいてないよ!」
「本当だな。このままだと子供はトラックに轢かれて死ぬぞ」
「お兄ちゃん、助けてあげて」
「しょうがない、助けてやるか」
僕は瞬間移動で少年の近くに移動した。
「おい少年、道路に飛び出したら駄目じゃないか。トラックにはねられて脳みそまき散らして死ぬぞ」
「あれ? なにもないところから人間が出現した!」
「驚いている場合じゃない。こうやって話している間にも、トラックが刻一刻と近づいてるんだ。すみやかに歩道に移動しないと」
「ダメだよ! もうトラックがすぐそばまで来てるよ! 僕死にたくないよう!」
少年は恐怖で動けない様子だ。こうなったら奥の手を使うしかない。
僕はアスファルトに両手をついて「土魔法、ゴーレム生成!」と唱えた。するとアスファルトの中から人型のゴーレムが出現した。
「ゴーレム、あのトラックを止めろ」
僕が命じると、ゴーレムはこくりとうなづいて両手を前に突き出した。
ダンッ! という大きな音が鳴って、走ってきたトラックをゴーレムが両手で受け止めた。
トラックは前面を大破させて止まった。
「ふう、危なかったな」
「助けてくれてありがとう」
「いいってことさ」
トラックの運転手が下りてきてクレームを言ってきた。
「おい、俺のトラックがへこんじまったじゃねえか。どう落とし前をとってくれるんだ?」
この運転手は元ヤクザなのか、腕や首筋に入れ墨が入っていた。しかし異世界であまたのモンスターとの死闘を潜り抜けてきた僕にとっては、入れ墨ぐらい子供だましみたいなものである。ちっとも怖くない。
「わき見運転をしていたお前の方が悪いんだろ」と僕は言ってやった。
すると運転手は激怒して「上等だこの野郎! ぶっ殺してやる!」と息巻くやいなや、運転席に置いてあった日本刀を持ってきた。
「ゴーレム、こいつを黙らせろ」
ゴーレムは運転手の顔面を掴み、そのまま空中に持ち上げた。
「あ、あがが……わ、悪かった……俺の負けだ……」
運転手はおしっこをちびって謝罪した。
「ゴーレム、下ろしてやれ」
解放された運転手は一目散に逃げて行った。役目を終えたゴーレムはアスファルトの中に返る。
この光景を見守っていた野次馬たちからぱちぱちと拍手が起こった。
「さすがお兄ちゃんだね」とユキが言った。
「まあな」
僕たちが立ち去りかけると、野次馬のひとりが声をかけてきた。
「あのう、すみません」
振り返ると、そこには黒いワンピースで黒髪ロングの美人が立っていた。切れ長のきれいな瞳をしている。
「はい?」
「今のを見させてもらいました。あなたを見込んで頼みたいことがあるんです」
「頼み?」
僕とユキは顔を見合わせた。