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20 キヨハル、大いに語る

 大臣たちと共に国会の建物の外に出ると、記者たちが待ち構えていた。


「私は無事だ。息子が助けてくれたのだ」と木村総理大臣は記者たちに言った。


 記者たちがカメラやマイクをキヨハルに向けると、彼は大いに語った。自分が命懸けで戦って総理たちを助けたと。もちろんその内容は嘘八百だ。


「あきれた。よくあんな真面目な顔で次から次に嘘が吐けるわね」とユキがあきれる。


「嘘を吐く才能だけはあるみたいであります」と朝霧。


「まあいいじゃないか。仕事は完遂したんだ」


 僕たちのところに神代刑事がやってくる。


「あなたたち、よくやってくれたわ」


「神代刑事。キヨハルが言ってることは嘘八百だよ」とユキが訴える。


 神代刑事は静かにうなづいて、「わかってるわ。あなたたちがベヒーモスを倒して総理たちを救ってくれたのよね。ちゃんと国会内の監視カメラで見てたわ」


 神代刑事は札束が入った封筒を僕に渡した。


「こんなにもくれるのか?」


「100万円もあるであります」


「いえ、これでも安いぐらいよ。あなたたちはこの国を救ったといっても過言ではないんですもの」と神代刑事はにこりと笑った。彼女は笑うととてもキュートだった。


 僕と神代刑事がそんなやり取りをしている間にも、報道陣に囲まれたキヨハルは熱弁をふるい続けていた。身振り手振りを交えてモンスターとの戦闘を熱く語る。その話しぶりは、嘘とわかっている僕でさえ引き込まれてしまうほどであった。


「さて、帰るか」と僕たちが帰りかけると、記者たちが悲鳴を上げた。


「きゃあああ!」


「化け物だ!」


 見ると、国会の入り口からこん棒を持ったゴブリンが姿を現していた。キヨハルをボコボコにしたあのゴブリンだ。


 記者たちがキヨハルに言う。


「勇者キヨハルさん! あのモンスターをやっつけてください!」


 キヨハルはさっきまでの雄弁さが消え、顔面蒼白になって狼狽する。大口をたたいた手前、ここでゴブリンと戦わないわけにはいかないのだ。


「おい、お前たち! ゴブリンをやっつけろ!」とキヨハルが僕たちに言う。


 僕はニヤリと笑い、「ベヒーモスを倒したキヨハルさんなら楽勝でしょ?」


「そうよね。楽勝に違いないわ」とユキもニヤニヤ。


「キヨハルさんがカッコよくゴブリンを倒す姿を見たいであります!」と朝霧が敬礼する。


「うぐぐぐ……おまえら……」


 記者たちがキヨハルに期待の視線を向ける。


「キヨハルさん! ゴブリンを倒してください!」


「お願いしますキヨハルさん!」


「楽勝ですよね? キヨハルさん!」


 窮地に追い込まれたキヨハルは、破れかぶれになって剣を抜き、ゴブリンに突進した。


「おりゃあああああ!」


 ごちんッ!


「あぎゃっあ!」


「あっ! キヨハルさんがやられた!」


 どご、ばき、ずが!


「キヨハルさんがゴブリンに滅多打ちにされているぞ!」


「さっきまで行ってたことは大ウソだったのか! 俺たちは騙されたんだ!」


「あっ、倒れたキヨハルさんのポケットから白い粉が入ったパケ袋が落ちたわ! あれってもしかして麻薬なんじゃ……?!」


 神代刑事が僕たちに言う。


「あなたたち、キヨハルを助けてあげてくれない?」


「了解」


 僕はゴブリンに近づいて袈裟斬りにした。血をまき散らしてゴブリンは死んだ。記者たちから歓声が上がる。


「おお! すごい!」


「もしかして、総理たちを助けたのはキヨハルじゃなくてあなたなんじゃないか?」


「うん、まあ、実はそうなんだ」と僕は言った。


 その後、ゴブリンにボコボコにされるキヨハルの映像と、僕がゴブリンを倒す映像がメディアで放送され、ネットでも拡散された。さらにキヨハルはコカインの所持及び使用で逮捕され、事務所をクビになって、ファンを裏切ったとしてSNSなどで叩かれまくった。


×××


 刑務所の中でキヨハルは歯ぎしりをした。


「くそう、急転直下で落ちぶれてしまった。地位も名誉も財産もすべて失った。これも全部あのナイトのせいだ。必ず復讐してやるぞ!」


 その独房の前にひとりの男がやってきた。シルクハットにタキシード、黒いマントを羽織り、手にはステッキを持っている。


「木村清春であるな?」とその男は言った。長身で眼の下に濃いくまがあり、口の中は真っ黒な虫歯だらけ、青白い顔のわりにやたらと赤い唇をしている。


「そうだ。お前は何者だ? 看守か?」


「吾輩はメフィスト・フェレスである。お前の願いをかなえてやろう」


 メフィストはマントの下から黒い液体が入った瓶を取り出し、それをキヨハルに差し出した。


「なんだこのどす黒い液体は?」


「これを飲めば願いが叶うのである」


「胡散臭いな」


「どうせお前には失うものはないであろう?」


「確かにそうだな。いいだろう。飲んでやるぜ」


 黒い液体を鉄格子の隙間から受け取ったキヨハルはそれを一気に飲み干した。からんと容器が床に落ちる。


「う、うぐぐぐぐ……き、貴様、俺に何を飲ませた……」


 キヨハルはおなかを押さえてうずくまった。脂汗を流し苦悶の表情。


「あははははははは!」とメフィストの高笑いが響き渡った。


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