2 ワニのモンスターと戦う
異世界から帰ってきた僕は自宅でのんびり生活をしていた。もともとは高校生だったが、1年も無断欠席をしている間に同級生たちは卒業していて、おそらく僕は退学になっているだろう。事情を説明すれば復学ができるかもしれないが、もう一度高校3年生をするのはいやだ。
つまり僕はニートということだ。
リビングのテレビをぼんやり見ているとユキが学校から帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり」
ユキはソファーに寝そべっている僕を呆れたみたいな顔で見下ろし、「ねえ、いつまでもニートでいるつもり?」と言った。
「悪いか?」
「悪いに決まってるじゃん。せめてバイトぐらいしなよ」
「お前はパパに似て頑固だな。どうせベーシックインカム制度が始まればみんな働かなくても生活できるようになるんだぜ」
「そんなのどうなるかわからないでしょ。もう、お兄ちゃんは相変わらず怠け者なんだから」
「冗談だよ。ちゃんと働くって」
そんなは会話をしていると、テレビに緊急のニュースが映し出された。
「大変です。これはCGとかじゃありません! 巨大なワニが街で暴れまわっています!」
ピンクのスーツの女性レポーターが叫んでいる背後で、巨大なワニのモンスターが暴れていた。乗用車を太い尻尾で撥ね飛ばし、電柱をへし折り、行きかう人間を食べていた。
「なにこれ! まるでモンスターだよ!」とユキがテレビ画面に向かって叫ぶ。
「これはまさしくモンスターだぞ。僕は異世界で戦ったことがある。なぜ異世界のモンスターが日本にいるんだ?」
「あっ、このテレビに映っている人パパによっくりだよ!」
ユキが画面を指さす。そこにはパパが映っていた。足を怪我した老人をかばって、傘でモンスターのワニと戦っているのだ。
「おい、これはパパに似た人じゃなくてパパ本人だぞ。このままだと殺されるのは時間の問題だな」
「パパ! 逃げて!」
「テレビに向かって叫んでも向こうには届かないぞ」
「なんでそんなにのんきにしてられるの?! パパがワニのおやつになっちゃうんだよ!」
「しょうがない、助けに行ってやるか」
僕は剣を持ってパパの近くに瞬間移動した。
「パパ、助けに来てあげたよ」
「おお、ナイト! 瞬間移動できたんだな。こんな化け物をどうにかできるのか?」
「まかせて。僕は異世界で最強の勇者だったんだ」
テレビカメラが僕に向けられる。レポーターがマイクに向かってしゃべる。
「あーっと、突然なにもない空間から青年が出現しました! 手に剣を持っているようです! どうやらあの剣でワニと戦う気のようです! 無謀です! 逃げてください!」
僕はワニに向かって剣を振り下ろした。ワニは縦にぱっぷたつになって死んだ。
「楽勝!」
僕はテレビカメラに向かってピースをした。パパがかばっていた老人が涙を流して僕とパパに感謝を述べる。
「し、信じられないことが起こりました! 剣を持った青年がワニのモンスターを倒しました! しかも、たった一撃でです!」
テレビカメラとリポーターが僕に近づいてきた。
「あなたは何者ですか?」
「通りすがりの勇者です」
僕はにこりと笑った。