16 ユキの覚醒
ヘカトンケイルを倒して帰る途中でユキが言った。
「あれ? お兄ちゃん、腕にけがをしてるよ」
「ん? 今日の戦いの中で着いたんだな。気づかなかった」
腕を見ると、確かに怪我をしていた。戦いの最中はアドレナリンが出て痛みに鈍感になるから、怪我をしても気づかないことが往々にしてあるのだ。
「まあこれぐらいの傷なら放っとけばそのうち治るだろ」
するとユキが、僕の腕に手を当てて念じだした。
「ん? なにをしてるんだユキ?」
「こうすれば傷が治るような気がするの」
「あっ、ナイトさんの腕の傷がみるみる治っていくであります!」
「本当だ! 僕の腕の傷がみるみる治っていくぞ! ユキ、お前、回復魔法が使えるのか?」
「そうみたい……自分でも知らなかった。私、癒し系だったんだ……」
ユキが回復魔法を使えるようになった。これは驚嘆すべきことだ。魔法が使えるのは異世界人か、異世界に行って修行をした僕に限られるはずなのだ。なのに、ユキが魔法を使えるようになったのだ。
「ユキちゃん、すごいであります! まるでキリストみたいであります!」
「僕は攻撃魔法は使えるけど、回復魔法は使えないんだ。僕と一緒にモンスター駆除をやってくれないか?」
「うん、どうせ学校が破壊されたことで、しばらくは休みになるから、その間お兄ちゃんと一緒にモンスター駆除をやるよ。その代りちゃんとバイト代ちょうだいよね」
「もちろんだ」
「それにしても、あのメフィストってやつは油断がならないであります。あの様子だと、また何かたくらんでるかもしれないであります」
「そうだな。たぶんまた何かしてくるだろうな。あいつは異世界の魔王の参謀で知略にたけたやつなんだ」
「狡猾でずる賢いやつなんだね」
「そうだ」
朝霧と途中で別れ、僕とユキは家に帰った。晩御飯はカレーだった。
×××
そのころ、夕暮れの空を蝙蝠の姿で空をとぶメフィストは、ビルの壁面についた巨大モニターの前を通りかかった。モニターには映画の予告が映っていた。主演俳優の木村清春が大写しになっている。その人物を見てメフィストは胸中でささやいた。
『この男からは魔王様に似たものを感じるのである』
蝙蝠の顔でニヤリと笑った。