11 銀行強盗を倒す
朝霧が助手になってから早2週間が経過した。最初はどうなることかと思っていたが、朝霧は戦闘において、案外有能な助手になっていた。天然のおっちょこちょいではあるが、銃の腕はピカイチなのだ。ただ、事務所の掃除をさせると必ず何かを壊す。
ガシャーン!
「も、も、申し訳ないであります! 花瓶を割ってしまったであります!」
「はあ……、掃除はしなくていいって言ってあるだろ」
僕は顔面に手を当てて嘆息を吐いた。
昼になり、僕と朝霧は昼食を食べに出かけることにした。
「今日は何を食べようか?」
「自分は。オムライスが食べたいであります」
「よし、じゃあオムライスを食べに行こう」
僕たちがオムライス屋さんに向かって歩いていると、銀行のところに人だかりができていた。
「なんだか人だかりができているであります」
「警察もいるな。事件みたいだぞ。行ってみよう」
人だかりができているのは銀行で、どうやら銀行強盗が人質を取って立てこもっているみたいだった。
「人質事件であります」
「そのようだな」
「犯人に告ぐ。速やかに人質を解放し、自首しなさい!」
拡声器で犯人にそう呼びかけるのは、スーツを着た女性刑事だった。きりりとした感じで、刑事ドラマに出てきそうな美人刑事である。
「まるで踊る大捜査線みたいであります!」
「あるいはあぶない刑事だな」
制服の警官が女刑事に声をかける。
「犯人は要求に応じないみたいですね。突入しますか?」
「だめよ。人質をとられてるからうかつに手を出せないわ」
「ナイトさんなら犯人を倒せるんじゃないですか?」と朝霧が言う。
「うん、まあたぶんできるだろうな。けど放っておけばいいだろ。僕たちには関係のないことだ。さっさとオムライスを食べに行こう」
「了解であります」
しかし僕たちが歩きかけると、電話の着信が鳴った。通話ボタンを押して耳に当てる。
「もしもし?」
「もしもしナイト」と電話の相手は言った。ママからだ。
「どうしたの? ママ」
「今日晩御飯どうする?」
「今日は早く帰れるから家で食べるよ」
「そう、じゃあ作っておくわ」
「うん、わかった」
「それとね……」
「なに?」
「今私、銀行にお金をおろしに来たら銀行強盗に巻き込まれちゃってるの」
「ええ! そうなの!?」
「だからもしかしたら。もし長引いたら、夕ご飯作れないかもしれないから、そうなったらパパとユキと一緒にラーメンでも食べに行ってね」
「いやいやいや、緊急事態じゃないか! なにのんきに晩御飯の心配してるんだよ! それで、犯人は何人? 武器は持ってるの?」
「犯人は5人で、武器はショットガンよ」
「僕が助けるから、犯人を刺激しないようにして」
「わかったわ」
通話が終わった。
「ナイトさんのママがあの銀行にいるでありますか?」
「そうみたいだ。こうなったら警察に任せておくことはできないぞ。僕たちの手で犯人をやっつけてママを助けるんだ!」
「了解であります!」
僕は女刑事に声をかけた。
「ねえ刑事さん」
「なんだ? 僕のママがあの銀行で人質になってるんだ。だから操作の協力をするよ」
「ママが心配なのはわかるけど、ここは警察に任せるなさい。ちゃんと無事に人質は保護するから」
僕と女刑事が話していると、ガンッ、ガンッ! と銀行から銃声が鳴った。
「さっさと逃亡用のヘリを用意しやがれ! さもなければ人質を殺すぞ!」
サングラスをかけた犯人が人質を羽交い絞めにしたままで、銀行の入り口に姿を現した。
「あっ、ママ!」と僕は叫んだ。
犯人に羽交い絞めにされているのはママだったのだ。僕の声に気づいたママは、笑顔で手を振ってきた。
「あらナイト。来てきれたのね」
「刑事さん。あれは僕のママなんだ。悪いけど勝手にやさせてもらうぞ!」
「あっ、ちょっと、待っ……」
僕はつかつかと犯人に近づいた。
「なんだてめえは!? 近づくな! ぶち殺すぞ!」
犯人は僕に散弾銃を突き付けて叫んだ。
「やれるものならやってみろ」
「てめえ、自殺願望があるみてえだな。お望み同り殺してやるぜ。脳みそまき散らかして派手に死にやがれ!」
バンッ!
犯人が僕に向けた散弾銃の引き金を引いた。僕は目にもとまらぬ動きでその弾丸をよけて犯人の側面に回り込む。
「僕にそんなおもちゃは通用しないんだよ」
そう言って、剣で犯人の右腕を切断した。
「ぎゃあああああ! お、俺の腕があああああ!」
「ママ、大丈夫か?」
「ナイト、助けてくれたの? ありがとう」
「犯人はあと四人いるんだろ?」
「そうよ。建物の中にいるわ」
「朝霧、突入するぞ!」
「了解であります!」
僕と朝霧は銀行内にいた強盗たちを一網打尽にした。
「刑事さん、犯人たちは無力化した。人質は全員無事だ」と僕は女刑事に言った。
「あ、あなた、いったい何者なの? まるで人間業じゃない動きだったわよ!」
「僕はこういうものだ」
モンスター駆除業者のビラを差し出した。
「モンスター駆除業者?」
「そうだ。モンスターが出た時には電話してくれよ」
「私は捜査一課の神代弥生だ」
僕は女刑事神代弥生の名刺を受け取って、その場を離れた。
僕たちは、ママも含めた三人でオムライスを食べた。
オムライスを食べ終えてお店を出ると、また着信が鳴った。その電話はユキからだった。
「あれ? ユキからの着信だぞ。あいつ、いまは学校のはずなのに……」
通話ボタンを押して電話に出ると、あわてた声のユキが言った。
「お兄ちゃん、大変なの!」