1 一年ぶりの帰宅
ガチャリ、自宅の玄関を開ける。すると、学校に行こうとしていた妹のユキがそこにいて、僕を見ると頓狂な声をあげた。
「お、お兄ちゃん!」
「ようユキ、帰ったぞ」と僕は微笑んだ。
「帰ったぞじゃないよ! いったい1年間もどこに行ってたの? それにその恰好は何?!」
妹が僕を見て驚くのも無理からぬことだ。僕は1年前に異世界に召喚された。そして、1年かけて魔王を倒し、日本の自宅に帰宅したのだ。その間こっちで僕は行方不明になっていたことになる。1年も失踪していた兄がひょっこり帰ってきたのだから、驚くなという方が無理であろう。
「異世界に行ってたんだ。そこで魔王討伐をして、今帰ってきたというわけさ」
異世界の装備に身を包み、腰には剣を差している。日本ではコスプレみたいに見えるだろう。
「お、お兄ちゃんが帰ってきたと思ったら、頭がおかしくなってるよおおおお!」
泣き顔になるユキ。
すると、話声を聞きつけて奥のリビングからママが玄関にやってきた。僕を見ると開口一番にこう言った。
「あらナイト、帰ってきたのね。ちょうど朝ごはんがあるから食べる?」
相変わらずマイペースでおっとりとしたママらしいセリフだ。
「うん、食べる」
そう答えて、ママと一緒にリビングに入って行くと、食卓テーブルに腰かけてコーヒーを飲んでいたスーツ姿のパパが、僕を見て、口の中に含んでいたコーヒーをぶーッと吐き出した。
「ナ、ナイト! お前、帰ってきたのか! 一年もどこをほっつきまわっていたんだ! バカ野郎!」
気の短いパパも健在だった。
「ちゃんと説明するよ」
そして大間家の人々はリビングのテーブルで向き合って座り、家族会議が開かれた。
「ユキ、学校はいいのか?」と僕は尋ねた。
「学校どころじゃないよ!」
「俺も会社には遅れていくと連絡をしておいたぞ」とパパが言う。
ママはご飯とみそ汁と焼き魚を僕の前に置く。
「ぱくり、うむ、うまい! やっぱり異世界の料理より日本の料理の方がおいしいや」
「おい、のんびり食べてないで説明をしろ!」
「さっきユキにも言ったけど、僕は異世界に召喚されて魔王討伐をしてたんだ」
「そんなばかげた話が信じられるわけないだろう! ちゃんと本当のことを言え!」
バンッとパパがテーブルをたたく。
「本当なんだけどなあ……あっ、そうだ。魔法を見せるよ」
僕は立ち上がって指を一本立てる。
「よく見ててね。瞬間移動!」
次の瞬間、僕はリビングからトイレに瞬間移動した。
「ね? 魔法が使えただろ? これで僕の言ったことを信じてくれるかい?」
リビングに戻って、驚いている家族にそう言った。
「お、おい、どうやってやったんだ? どんなトリックだ?」
「すごいお兄ちゃん! ミスターマリックみたいだね!」
「ママにもやり方を教えて欲しいわ」
「これは手品なんかじゃないんだ。本当の魔法なんだぞ」
僕は家族の前で何度も瞬間移動をやって見せ、異世界に行っていたということをやっと信じさせることに成功したんだ。