Chapter1 †The fate begins to move† 予感
傘を差すのも面倒で、ノアはそのまま外に出ていた。
初めはシスターたちの中にも心配して傘を差せというものがいたが、何度言ってもノアが聞かないので皆言うことをあきらめていた。
雨がやむ気配は無い、相変わらずの暗雲だ、心なしかさっきよりもひどくなっている気がした。
「・・・」
すれ違う人々、何人かの者は傘を差さないノアに対し奇怪の目を向けてきたがノアにとってはどうでもよいことだった。
昔から何にも執着しない性格だったノアは、周りに興味を持つことも無かった。
レンガ造りの大通りをしばらく歩き、何本目かの細い路地の入り口で足を止める。
「・・・」
ノアはしばらく無言のままその路地の奥を見詰める。
シスターたちがノアに牧師探しを頼むのは、彼が牧師の居場所を把握しているというのも理由のひとつだが、もうひとつ理由があった。
ノアはそのまま細い裏路地に入っていく、この街もそうだが、街というのは大体大通りから裏路地に入れば少なからず雰囲気の違いがあるものだ。
裏路地に入れば雨が降っていることもあり、大通りよりも暗い。
「・・・はぁ」
ノアは短く息を吐くともう一度足を止める、彼の目の前にはピンクのネオンの文字で「ツェリザカ」と書かれている建物がある。
ネオンの文字は一部電気が切れ点滅し、目の前のものは建物と呼んでいいのかと思うほどところどころかけている。
ノアはしばらくの間その点滅しているネオンを見つめ、目の前のドアに視線を移す。
カランカラン・・・
ノアがドアを押すのと同時にドアにかかっていた鈴が鳴った。
「いらっしゃい・・・あら、ノアじゃない」
カウンターの奥に立っている女性がノアに声をかけきた。
建物の中は薄暗く全体的に茶色の落ち着いた雰囲気をかもし出している。
カウンターの向かいにはいくつかの椅子が並んでおり、奥にはお酒のボトルが並んでいる。
俗に言うバーというものだ、まさしくという感じ。
到底神に誓いを立てたシスターが入ることのできないような場所・・・・・・そう、シスターたちがノアに牧師探しを頼むのは自分たちが入ることのできないような場所に牧師がいることがあるからだ。
「・・・あぁ」
ノアは女性の声に軽く受け答えをすると、一番奥のカウンター席へ目をやる・・・やっぱり。
客はまばらであるが数人ほどいる、その中に一際目立つ男、黒のひざまである長い服、肩には白い布がかかっていて、服には合わない金髪で体格のいい中年男。
その男はノアには目もくれず、琥珀色の液体と不規則に割られた氷の入っているグラスを傾けている。
ノアは男の存在を確認するように見てから、男に歩み寄る。
「クルーネ・・・牧師様・・・」
そういいながらノアは、中年男、基クルーネ牧師の隣に腰を下ろす。
「おぉノアか、どうした?」
クルーネ牧師はノアに目をやるとニッと人のいい笑顔を向ける。
この人は昔からそういう人だ、放浪癖がありシスターに手を焼かせているが、人はよく優しい、憎めない存在だ。
人をひきつける魅力というやつだろうか・・・僕とは間逆
「・・・わかってて聞いてますよね?」
「ははっ、まぁそう言うな」
クルーネ牧師は隣に座っているノアの肩を勢いよく叩いた。
程よい具合に酒が回って機嫌のいい牧師とは裏腹にノアは肩を落としため息をついていた。
「相変わらず暗いなお前は・・・あんまり引きこもっていると体に悪いぞ?」
「放浪癖もどうかと思いますよ?」
ノアはひじをつき気分よく酒を飲む牧師を横目に見る。
「・・・おい」
「分かってますよ・・・」
クルーネ牧師の言葉に含みがあったことぐらいノアも気づいている、彼の目線はノアの腰あたりに落ちていた。
目線の先にはノアの愛用している2丁のハンドガン、一方はナイフつきのものだ。
もちろん愛用というほど頻繁に使っているわけではない、教会に住んでいるノアに銃を使うようなことは起こらない。
ノアにとってこの銃は単なるおもちゃでしかない。
手に入れたきっかけだってたいしたものではなかった、行き倒れしていた商人を助けてやり、その礼ということでこの2丁の銃を安く譲り受けたという程度だ。
「あまり危ないことに足を突っ込むものじゃないぞ・・・」
「・・・」
ノアはクルーネ牧師の言葉に対して肯定の言葉も否定の言葉も無い。
この場合沈黙は、肯定を意味するだろうが。
・・・どうせ危ないことなんて起こりはしない・・・今までも・・・これからも・・・
「さって、そろそろ帰るとするか、あまり留守にしても皆に悪いな」
「そう思うんなら、外に出ないべきだと思いますよ?」
「ははっ、年寄りの楽しみを奪うもんじゃない」
ノアとクルーネ牧師はお互い目を合わせずに会話をすると席を立った。
クルーネ牧師は大体ノアが来れば一緒に帰る・・・ノアにとっては、自分が行かないと帰ってこないというのはかなり迷惑な話なのだが。
彼はなれた動作でポケットから銅貨を出しカウンターの上へ置く、どう考えても枚数を数得ていないため代金にぴったり合っているとは思えないが、それを指摘するものはいない。
まぁ、大体の場合牧師は代金よりも多くの金を置いていくので誰も指摘しないのだろうが。
そのまま二人は出口へ向かい、ノアがドアを引いて外へ出た。
カランカラン・・・
入ってきたときと同じ音が鳴りドアが開く。
店の中は少々空気がよどんでいたので、外の空気が冷たく新鮮だった。
ふと空を見ると、あれだけひどく降っていた雨はやんでいて、西の雲の間から赤い日の光が見える・・・きれいな夕焼けの赤だ。
空が好き
青い空が好き
白い雲がすき
黒い夜空が好き
金色の星が好き
紅い空は好き?
ノア君ちょっと癖のある子になりそう・・・
キャラタープロフィールおよび詳細は今度の載せれたらあとがきにでも載せようかと^^
著者 イブノア