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Chapter2 †be a hypocrite† 焔

ノアとアシュレイは、修道院に向かって走っていた。


すでに日は落ち、辺りは暗闇だ。

あの地下通路の出口はアシュレイがいつも修行を行う修道院近くの森に出るらしく、幸い道は解っていた。


そこまで深い森でもないのでしばらく走ればすぐに通りに出た。

通りに出ればいくつかの民家が立ち並んでいる。

二人に正確な時間は解らなかったが、日はまだ沈んだばかりで、この時間帯なら通りを人が行き来しているはずだった。

しかし、ノアとアシュレイが通りに出たとき人はおらず、ほとんどの家の明かりが消えていた。


「・・・どうなってるんだろう、人が一人もいないなんて。」

《変ね・・・》


違和感を覚える光景に二人は足を止めた。

辺りを見回したが、この状況を説明するものは何もない。

家の窓からの光が無いので、街灯だけに照らされた道は薄暗く、二人の不安を煽った。


「急ごうアシュレイ、嫌な予感がする・・・」

《そうね・・・》


二人は静かな通りをあとにし、先程と同じ方向に駆け出していった。


タッタタッ


二人分の足音が暗闇の中にこだまする。

足音がはっきりと聞こえるほど辺りは静かだった。


修道院に近づくにつれ通りは広くなっていく。修道院はもうすぐ見えてくるはず

だ。

通行人も数人見かけるようになったが、いつもに比べて極端に少なかった。


「いやぁ、あれはすごいな、あの調子じゃ全焼なんじゃないか」

「気の毒にな、神様が燃えちまうなんて縁起が悪いよな」


二人の男が、ノアとアシュレイの向かいから歩いてきた。

修道院の方から歩いてきたのだ。


「っ!!・・・待ってください!!」


ノアは男たちの会話を聞いて思わず一人の男の肩を掴んだ。


「わっ、なんだっ」


肩を掴まれた男は予想もしていなかった事態に驚き顔をしかめてノアの手を振り払った。

手を振り払われたノアは理性を取り戻し手を引いた。


「すっ、すみません・・・あの、さっき【全焼】と言っていましたが、どこかで火事が・・・?」


ノアは何となく最後まで言うことを躊躇ためらってしまった。

男たちの会話からは嫌な予想しかできなく、その予想をノアは全力で否定していた。


「あぁ、修道院だよ、そこの」


男は自分の来た方向を顎で指した。

ノアとアシュレイは一瞬頭が真っ白になった。


《っ・・・》


二人の意識が戻ったのはほぼ同時だった。

その瞬間二人は周りのことなど忘れ、修道院に向かって無我夢中で走り出す。


「あっ、おい」


男は二人があまりに驚いた様子で走り出したので、呼び止めようと手を伸ばしたが、その手はくうを掴んだだけだった。


二人は全力で通りを駆けていた。

今の二人には音も周りの景色も目に入らない、ただ必死に走っていた。


「あれは・・・」


ノアの目に天に向かって延びる一筋の黒い筋が見えた。

その筋はゆらゆらと揺れ、上へ行くほど薄くなっていた。


《煙っ!!》


煙が上がっている方向は、確かに修道院のある方角だ。

アシュレイは不安で胸が締め付けられるようで、足を止めてしまう。

無心で走っていたので、走っている最中は疲れなど微塵みじんも感じなかったが、足を止めると一気に力が抜け、二人とも息が絶え絶えだった。


「アシュレイっ!まだ確信はないんだ!」


ノアはなんとか自分を保とうアシュレイに向かって必死に叫んだ。


「・・・まだ、わからない・・・」


ノアもアシュレイの気持ちは痛いほどわかっていた、だからこそ早く真実を確かめたい気持ちがあった。


《・・・そうね、兎に角行かないと》


アシュレイもノアの声になんとか理性を取り戻し、拳を強く握りしめた。


二人は必死だった、足の疲れも、荒い息も何もかも無視して走った。

今立ち止まってしまったら、不安で胸が押し潰されてしまいそうだった。

そうなれば、今二人が感じている嫌な可能性を自ら肯定してしまうことになる。


「・・・っあぁ!!」


悲痛の叫びをあげたのはノアだった。

アシュレイも顔が青白くなり、目を見開いた。


彼らの行き着いた先は、まるで昼間のように明るかった。

どうやら周辺の人、皆が集まっているらしく、今までに見たこともないぐらい人盛りが出来ていた。

しかし、二人の目にそんなものは映っていなかった。

二人の目には、人盛りの先にあるもねがハッキリと映った。


《うそ・・・》


アシュレイの声は今にも消えてしまいそうなほど細く、震えていた。

そしてアシュレイは脱力感のあまりその場にしゃがみこんでしまう。


教会の周りは夜だというのにまるで昼のように明るく、夏のように熱かった。

そして修道院は、まるで信書に出てくるような、紅蓮の炎で包まれていた。


「・・・!!」


ノアは我を忘れ修道院へ走っていた、皆は無事なのだろうか、あの群衆の中にまぎれているのかもしれない。

淡い希望を抱きながら、ノアは群衆の中へと飛び込み、人の波を掻き分け、ようやく修道院の目の前へと出た。


「・・・」


言葉を失って立ち尽くすしかなかった。

先ほどまでそこにあった修道院は、ほとんど火が回ってもう中に入ることは出来ない。

ノアは周りを見回した・・・修道院に向かって手を合わせ祈っている老人、驚きの表情をあらわにする女、何とか火を消そうと苦戦している男達。

多くの人が修道院の周りにいたが、なぜかシスターや牧師、修道院の人間の姿は一人も見当たらない。


ノアはただただ修道院を見つめていた・・・





      



         

人間と動物の違いは火を使ったことだ




人間は火を使えたことによって、他の動物たちに勝る力を得た




それならば、神と人間の違いは何なのだろうか




神は何によって人間を勝ったのだろうか




それとも、神など存在しない?



    

もしくは、神は人間と同等の存在なのだろうか




それは、『神のみぞ知る』という名の愚問だ




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