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Chapter2 †be a hypocrite† 単純明快

「よくも・・・よくも・・・」


逃げていた男を挟んでノアの前に立っている少年はうつむいていた。

回りが暗いせいもあって、その少年の顔を確認することは出来ない。


「・・・」


聞こえるのは吹き抜ける風の音だけ、さっきまでの大騒ぎがうそのように、ここだけ時間が止まっているようにすらも感じる。

ノアもアシュレイも、そして目の前の男も動けずにいた。

男は腰を抜かし、二人はいまだに現状が理解できていなかったからだ。



「ここ・・・は・・・花・・・」


目の前の少年は片手にサブマシンガンを持ち、肩を落としてゆっくりと言葉をつむいでいた。

その間も少年の手はワナワナと小刻みに震えている。


「これは切れてるよね」

「切れてるわね・・・」


さっきまで黙っていた両サイドの子供がお互いで話し始めた。

口調からして、片方は女、片方は男のようだ。

小さな少年達は、自分達の間に立っている少年などお構いなしに両隣で話している。

二人の少年と少女の雰囲気は真ん中に立っている少年とは対照的になにやら楽しそうにも聞こえてくる。


ガチャン


機械音が鳴り、そこでやっとノアとアシュレイはわれに返った、少々遅かったようだが。

真ん中に立っている少年がサブマシンガンをこちらに向かって構えていた。

少年が銃口を向けている先は、ノアやアシュレイよりは少し下に向いており、どうやら逃げていた男に向いているようだった。

しかし、この位置から言って確実にノアやアシュレイも巻き添えを食らってしまう。


《まって!!》


とっさにアシュレイが声を出した、しかしそれはノアにしか聞き取れない音にならないもの。

少年がトリガーに手をかけ、引き金を引くか引かないかのわずか、引き金よりもアシュレイの『声』が発せられる方が早かっただろうか。


「え・・・」


ガウンッ・・・


最後に発せられたのは銃を構えた少年の声だろうか、銃声にかき消されて聞き取ることは出来なかった。

アシュレイとノアは死を覚悟し目をつぶっていた・・・が、痛みは無い。

うめき声も聞こえなく、逃げていた男に弾が当たったというわけでもないらしい。

それじゃあ、銃口はどこへ向いていたのだろうか・・・

二人はゆっくりと目を開けた。


「・・・」


二人の目に映ってものは、サブマシンガンの銃口を空に向けている少年の姿だった。

正確には、両サイドの少年と少女に腕をつかまれ、無理やり銃口をそらされたような形になっていた。


「・・・今、変なの聞こえたよね・・・」

「えぇ、私にも聞こえたわ・・・」


交互に喋っている両サイドの少年達、お互いでお互いの意見を肯定しあっていた。

その二人に腕をつかまれ、銃口をそらされた少年も口をぽかんとあけ、唖然としていた。

反応からして銃口をそらされた事に対しての感情現れではなさそうだ、現に、両サイドの二人が話し始めてもその体制のまま固まっている。


「・・・どういうことだ?」


ノアとアシュレイもわけが分からなく、お互いの顔を見合わせていた。

ほんのさっきまで、目の前の少年は本気で此方を討つつもりだったと思う。

しかし、皆無傷で、そのうえ少年達の表情が明らかにおかしい。


《あっ・・・》



アシュレイはそこで自分達の前に倒れている男に目が行った。

どうやらさっきの銃声で気絶してしまっているようだ。


《好都合・・・なのかしら?》


アシュレイは呟くと、倒れている男の下へ近寄っていこうとした。



「まって!!」


いきなりの制止の声に、アシュレイの体は軽くはねた。

アシュレイは声のした方へと向き直る、どうやら声を掛けたのは、真ん中に立っている少年のようだった。

少年の手にはいまだサブマシンガンが握られているものの、銃口は此方に向いていなかった。

どうやら敵対する意思はないように見える。


《・・・》



アシュレイはだんまりだった、まともに声が出れば何か言うこともあったかもしれないが、あいにく彼女の声はノア以外には届かない。

アシュレイと少年は沈黙のままお互いを見合っていた。


「あなた・・・名前は・・・?」


あまりにいきなりの質問で、アシュレイは返す言葉が無かった。

さっきまで仮にも銃口を向けていた相手に名前を聞くものなのか・・・


《・・・》

「アシュレイだよ」


声の出ないアシュレイに替わって答えたのは、ノアだ。

ノアはアシュレイに歩み寄ると、同じように少年に向き直る。


「喋れないの?」


どうやら少年は、聞きたいことは聞くという性分のようだ。

さっきまでのことなどはすべてお構いなしにたずねてくる。


「声が出ないんだよ」


またも答えたのはノアだった。

正直言ってこの話題にあまり深入りはしてほしくない、ノアはあえてそっけない返事を返していた。


《喋れないわけじゃないわ、声が出ないの・・・》


アシュレイの『声』を聞き、ノアは隣に居るアシュレイを見た。

だことなく悲しそうな表情に見えて、なんともやりきれない気持ちになってくる。


「・・・ちゃんと声も出ているじゃありませんか」


急に少年の口調はおしとやかになった・・・が、ノアとアシュレイの二人にとってはそんなことどうでもよかった。

帽子を深くかぶっている少年らしき子が、アシュレイと会話をなしているように聞こえた。

二人は顔を見合わせて息を呑んだ・・・今までこんなことは無かった。

修道院にはたくさんの人が居たが、アシュレイの声を聞き取ることが出来るのはいままでノアたった一人だった。

これからもずっとそうだと二人とも心のどこかで思っていた。


《聞こえ・・・てるの?》

「正確には頭の中に直接って感じでよね?」

「うん、だからさっき当たらないように銃口をずらしたのよ」


今度は両サイドの少年と少女だ。

ノアとアシュレイは、目を見開いて目の前の三人を改めてみる。

三人とも御信用というには程遠い武器を所有しているという点では普通ではないのかもしれないが・・・それ以外は何も変わったことは無い。


《私の声は・・・誰でも聞こえるというわけじゃないの・・・今まではここに居るノアにしか私の声は届かなかったわ》

「アシュレイ・・・」


ノアは、話し始めるアシュレイに軽い静止の言葉を掛けたが、アシュレイは首を横に振った。


《もしかしたら、私の声がどうして出なくなったのか分かるかも知れない》

「・・・そうか」


ノアは一言だけ言い、もう一度目の前の三人に向き直る。


《教えてほしいの・・・どうして貴方達が私の声を聞けるのか・・・どうして私の声が消えたのか・・・》









           難しいことなど無いさ 













                この事件にはもともと答えなんて存在しないんだからね










         この事件はすべて運命なんだ

















                彼の死因は運命だったんだ





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