Chapter1 †The fate begins to move† 夢の先
コツ・・・カツン
暗い地下に乾いた音が響く。
階段の下は真っ暗で、目を細めれば辛うじて回りが見えた。
カツン・・・
二人はしばらく無言で階段を下っていたが、やがて階段は終わり、平らな石造りの道になる。
《暗いわね》
ノアとアシュレイは壁に手を突きながら歩いていた。
地下は下にいくほど暗くなり、階段を下り終えると周りはほとんど見えない状態になっていた。
「あ・・・ちょっと待って」
ノアは何かが手に当たった気がして壁に両手を突き辺りを探った。
ゆっくりと手を上へ滑らせていくと指先に金属独特のな固さと、微かな暖かさが触れる。
「アシュレイ、これ灯りじゃないか?」
ノアは自分の手元を見つめながら言った。
《・・・えぇ、そうみたいね》
アシュレイもノアの手の辺りに触れる。
「・・・ちょっとそのままにして、アシュレイ」
ノアは壁から手を離すとポケットの中に手を突っ込んみ、四角く薄い形のものを取り出す。
ノアは手の中のものを器用に動かし、右手を軽く引いた。
シュボッ・・・
マッチ特有の音をたてて、ノアの手もとが明るくなる。
ノアはそのままマッチをアシュレイの手を頼りに上へあげた。
やがて、アシュレイの手と共に、彼女の触れているものを照らし出す。
照らし出されたものは、半円状になっておりなかに液体がたまっていて通路の奥まで長く延びている。
アシュレイたちが触れたのはその端だった、そこからヒモが一本出ている、ノアはその糸にマッチを近づけ火を移した。
ボッ・・・ボッボッボッ
糸に火が移ると順に奥へと火が燃え移っていき、石造りの道の片側を照らし出した。
今まで見えていなかったまっすぐ奥へと伸びているようだ、一番奥には広い空間が広がっているように見えた。
《ねぇ、ノア・・・》
「ん・・・?」
周りが明るくなり、ノアとアシュレイはお互いの顔を認識できるようになっていた。
ノアには一瞬アシュレイの表情が曇って見えた。
《・・・どうしてここに灯りがあるって思ったの?》
「・・・あぁ」
ノアは手探りで場所を探していたものの、周りがまったく見えない状態で感触だけを頼りにそれが灯りだと割り出すのは難しいだろう。
しかし、ノアは自分の触れたものが灯りだと確信していた。
「・・・夢で見た・・・」
《え・・・》
しばらくの沈黙、ノアは俯いていたがやがて顔を上げ困ったようにアシュレイに笑いかけた。
「なんてね」
《・・・》
アシュレイはノアの言葉を聞くと軽く肩を上げてため息をつき、しかし、呆れているというわけではなかった。
アシュレイはもう一度ノアに目をやる。
《ずいぶんとロマンチックなこと言うのね》
「ははっ」
ノアの笑い声は地下全体に響き渡ったように聞こえた。
普段はそんな風に声を立てて笑わないノアだが、唯一アシュレイの前では普通の少年のように振舞えている気がした。
生憎ノア本人は普通の少年とはどんなものかなど知りはしなかったが。
ノアは笑い終えると軽く息を吐き、自分の手にしているマッチ箱に目をやった。
「でも、ウソってわけじゃないよ」
《・・・?》
「夢で見たような・・・そんな感覚ってこと」
《・・・そう》
今度はアシュレイが軽く俯いてしまう。
ノアはある時からぷっつりと記憶が飛んでいた。
別に記憶喪失という訳ではなかったが、いつ何処で記憶を失ったかも覚えていなく、記憶の一部にまるで霧がかかったようになっている。
ノア自身はそこの部分の記憶が飛んでいても特に不便は無かったので、気にもしなかった。
しかし、幼いころから一緒にいるアシュレイとたまに記憶違いが起きることがあったのだ、正確には、アシュレイのが持っている二人の記憶の一部をノアが持っていなかったのだ。
「忘れちゃったのかな?」
《そうね・・・あまり大事な記憶じゃなかったから》
「・・・」
ノアの記憶が抜けている部分は、アシュレイとともにすごした記憶だった。
それ以外にも忘れていることはあったが、多く忘れている記憶はそれだった。
二人で遊んだ記憶・・・周りの者たちは「物事に執着の薄いノアはただその記憶が不要だと思い忘れてしまっだけだ」と言う者も多かった。
「まるで夢で見たような感じなんだ・・・本当にそれが夢で見たものだったかも曖昧で、覚えているようで覚えていなくて、でも、なんだか前にも見たもののような気もする」
《・・・ねぇ、そのマッチ・・・》
アシュレイが重い空気に耐えられなくなり話題を変えた。
ノアもいきなりのことで一瞬と惑ったが、ここでこの会話をする必要は無いと思いアシュレイの話題に乗ることにした。
「これがどうかしたの?」
《ちょっと見せて》
「あ・・・」
《・・・》
アシュレイはノアの手からマッチを取り、マッチを覆っている紙の表面を見る。
紙には「ツェリザカ」と印刷されていた。
《・・・はぁ》
「・・・」
アシュレイの反応に自分のことではないのがノアも少々申し訳なくなってしまう。
「・・・年寄りの楽しみをとるな、だって」
《やっぱり貴方に頼んで正解だったわね》
「あぁ・・・やっぱり君だったんだ」
ノアはアシュレイからマッチの箱を受け取るとポケットに戻した。
《まったく・・・いい人なのは確かなのに・・・》
アシュレイはまた息をつく、今度ははっきりと呆れの色が出ている。
ノアもアシュレイもお互い黙っていたが、ノアが短く息を吐き気持ちを切り替えた。
「・・・そろそろ行こう・・・」
《そうね》
二人は奥にある広い空間に向かって歩きだした。
夢の先には何がある
夢の先は終りだ
夢が覚めればそこは現実
現実こそが悪夢だ
書いてて楽しい・・・
自画自賛というわけじゃないけど・・・楽しい(笑)
最近更新スピードが落ちてきているっ!!
まぁ、原因はもう一人なのですが^^;
感想、応援メッセージ、質問なんでもokです♪感想どうぞ^^
著者 イブノア