幻影
「なぁ」
ふと、虚空から声が聞こえた。
その方向を向く。
何も無い空間からは無限の可能性とともに恐怖という感情を教えてくれる。
手を伸ばすが何も掴めない。
暗闇に向けた視線はどこか揺らいだ陽炎を見ている時のように渦を巻いたここでないどこかに吸い込まれたようだ。
「お前は誰だ?」
はっきりと声を出し問う。
反響の悪い壁からは何も返ってはこない。
薄気味悪い月明かりが部屋の1枚窓から差し込んで姿鏡を照らす。
光の筋が道のように見えた。
その時か、突如自分が闇の中に落ちた錯覚がした。瞳を閉じられた。
身震いする感覚と嫌な汗をかく感覚でいっぱいになった。
だが、どこかワクワクする自分がいる。
未知の遭遇とふしだらな自分に訪れたこの危機に。
不意に首を撫でられる。
窓がカタカタと。
床はミシミシと。
五感が鋭くなる感覚がする。
不思議な万能感に浸る。
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目を開ける・・・
鋭い光が目に入る。
体は気だるいと脳みそはいうがアラームは労働の時間だという。
葛藤の末、被っていた布団から這い出る。
どこからだろうか、有象無象を身にまとった四角い液晶から笑い声が耳に刺さった。