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異世界眼鏡っ娘計画  作者: T-time


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無事

 矯太郎の顔に一つ、雫が落ちた。

 急激に意識が戻ってくると同時に、腹部の激痛がまだ健在であったのだろう。

 一瞬顔をしかめてから目を開いてゆく。


 彼の眼前にはリリー・フロマージュの泣き顔がドアップで写し出されており、彼女の眼鏡にはいくつもの涙が溜まっていた。


「俺を信じてくれてありがとう」 

 最初に矯太郎の口から出た言葉は、彼女のお陰でこの状況があることを理解しているものだった。


「そんな……お礼を言うのはこちらです。ヨツメ様が体を張ってくれなかったら、あいつは逃げちゃってたんですから」


 矯太郎は、仰向けに寝かされたまま顔を動かすと、立ちすくんでいる銀髪の少女を視界に入れた。

 どうやらグースを矯太郎ごと吹き飛ばしたまま、その場で動かないのだろう。


──あの時、絶体絶命のピンチ。

 彼にできる事は体を張ることと、もう一つあった。

 賭けにはなったが、どこか確信めいた勘に希望を見いだしてもいたのだ。


 銀髪の少女がローランドを戦闘不能に追いやったあと、一瞬だが動きが止まったのを矯太郎は見逃さなかった。

 本来であれば、ローランドへトドメを刺しに行くタイミングだっただろう。

 もしくはすぐにでもグースの元へと参戦し、メイやリリーへと攻撃を繰り出していただろう。


 だがそうしなかった。

 その場の予想を裏切って、グースへと攻撃を放ったのだから。


 その引き金になったのは、離れた矯太郎にすら感じるほどの、シーフの殺気だったように思う。


 どうやら少女を縛るネクロマンサーの術は、その術師が気を失ったことで暴走モードに入ったのではないか?

 向かってくるものを倒せと言う曖昧な指示だった場合、殺気や敵意というものに反応していただけではないかと矯太郎は考えたのだ。


 もちろんこの部分には殆ど確信があったため問題なかったのだが──。


 『賭け』の部分はここから先だった。


「あそこでリリー殿が俺を信じて武器を棄ててくれなかったら、全部無意味になるところだった。だからありがとうなんだよ」


 リリーが、戦いの中で武器を棄てるという荒唐無稽な命令を信用してくれるかどうかに、全てかかっていた。


 矯太郎があの立場だったら棄てることはないだろう。

 それはきっと彼が誰も信用できないという性質にあるからだ。


 しかし、仲間の献身に顔を泣き腫らしているリリーは違った。

 人が良いのか、自暴自棄かは知らないが、矯太郎の言葉に素直に従ってくれたのだ。


「信じてくれてありがとう」

 泣いている眼鏡っ娘を笑顔にしたくて、矯太郎はもう一度彼女に礼を言う。


「ぐすっ……当然ですよ……だって、ヨツメ様も私が言う通りにするって信じてくれたから、あんな指示を出したんでしょ?」


 その言葉に矯太郎は目を見開いた。

 彼自身、他人を信じることを避けてきたし、期待をすれば裏切られると、出来るだけのことを自分でやってきた。

 そんな彼に対してリリーは「信じてくれた」と笑顔を作ったのだから。

 

 改めて考えると、確かにあの状況で矯太郎がリリーの行動を信じないと出来ない発言ではあっただろう。

 信じていない、賭けだ、等と言っておきながらも、根底の部分では……期待していた事に気付かされたのだ。


 そんな彼に対してリリーはレンズに溜まった涙の奥で、その丸い目を細めて笑うのだった。


「やっぱり貴方を信じて良かった!」

 彼女のその笑顔が、全てを包んでハッピーエンドにしてくれたせいで、グダグダ考えるのがバカらしくなってしまった矯太郎。


 幸福に満ちた眼鏡っ娘に対して、自然と彼自身も笑顔になる。

 そういえば気の抜けた笑顔なんて、久しく他人に見せていないのを思いだし、鏡の無い今、自分がどれだけ緩んだ顔をしているのだろうと、すぐに苦笑に戻ってしまったのだけど。


 恥ずかしさを紛らわせようと、彼は自分の体調の方に意識を向けた。

 腹の刺し傷は深いものだったらしく、額に玉のような汗をかいたライフ・グリンベルが懸命に治療を行ってくれていた。


「ライフ殿までこっちに来たのか」

 そう言えば元コカトリスの洞窟に彼女を置いてきた。

「シャーリーちゃんが戻ってきて、行こうって私を引っ張ってきたんです」


 睡眠爆弾自爆テロを行ったあと、寝ていた筈のシャーリーは、ライフが必要になると思ったのだろう。

 やはり彼女には第六感に近い何かが宿っているように矯太郎は思うのだ。


「眠り薬が作れるってことは、目覚め薬も作れるって事なのよ!」

 横たわる彼の頭元でシャーリーが腰に手を当て胸を張って叫んだ。

 仁王立ちしているところ申し訳ないが、矯太郎には下からパンツが丸見えになっている事だろう。


 こう見えて彼は紳士だ。

 それからはしっかりと目をそらすのだった。

「ローランド殿は大丈夫なのか?」

 どうやら彼の大切な眼鏡っ娘達には怪我も無さそうだということで、今回の戦いで矯太郎に次いで酷い怪我を負っているであろうローランド・サンロッドを心配する。


「ここです」

 死人の少女と戦い、こちらも気を失うほどの重傷を受けている筈のローランドが、苦しそうに返事をした。


「肺の空気を全部持っていかれて、完全に意識が飛んでいましたが、肋骨が2、3本折れた程度ですよ」


 人はそれを重傷と言うのだが。

 彼ら冒険者にとっては、死ななかっただけありがたいということだろうか。


「ヨツメさんの後に俺も治癒して貰いますから心配は必要ありませんよ」

 岩にもたれ掛かり、息を吸う度に苦しそうにしながらも彼は笑った。

 周りに気を使わせないためだろう。

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