矯太郎が出来ること
「お頭! どうなってやがるんですか」
そう言えばまだ人数が合わなかった。
グースと少女、そして最初にローランドが痺れさせた雑魚と、あともう一人いたはずだ。
お頭と呼ばれている以上、親玉が控えているのだろう。
矯太郎は状況を把握するために少し移動すると、角度を変えてグースの背中を目で追う。
そこには腹に材木の破片が刺さった男が倒れていた。
きっと彼が盗賊団をまとめ上げる頭だったのだろうが、抱き上げてもその目は開かず、意識が無いように見える。
その男はグースよりも身長はあったが、鍛えられている体つきをしていなかった。
状況からして魔法使い、それもネクロマンサーだったのだろうと推測される。
そんな彼が意識を失ったために、銀髪の少女は暴走しているに違いなかった。
お頭の状態を見て、グースも状況を悟ったのだろう。
目を泳がせると、周囲の状況を確認しはじめた。
その目が自分が隠れている方向へと向くのを、矯太郎は見て思う。
「マズい、逃げる気だ!」
すり鉢状になっている採掘場とは言っても、この広場に降りる際には4m程度の高低差を飛び降りるしか無かった。
しかし、その段差は螺旋状になっているため、矯太郎の奥へ進めばその高さは低くなり、身軽なものなら乗り越えられる程になるのだ。
グースは自分だけでもこの場から逃げ出す事を考えたに違いない。
銀髪少女に攻撃されているメイとリリーは、気付いていない。
それにあの縮地を使って逃げられれば、メイとて追い付くことは難しいだろう。
男が逃げのステップを始めた。
逃げるルートは矯太郎の隠れているここしかない筈だ。
しかし、戦闘の経験もない素人が立ちはだかったとしても、どれだけ足止めが出来るだろうか。
それに、上手く足止めできても、あの銀髪の少女がメイ達を拘束している限り無駄になってしまう。
この状況で、彼がやれることはあまりに少ない。
それでもやはりこの男は考えるのを、観察するのを止める事はなかった!
「リリー殿、杖を棄てろっ!!」
矯太郎はグースの逃げ道に立ち塞がると同時に、大声を張り上げる。
突然の行動と不可解な言葉に、真意を理解する時間が掛かっているようだ。
リリーにとって目の前の少女は脅威でしかない。
この強敵に対して、攻撃手段を持たないということだ。
簡単にはいそうですかと従えるわけがないのも、矯太郎はわかっていたが。
「俺を信じてくれ!」
そう想いを言葉にするしか無かったのだ。
逃げ出そうとしていたグースにとっても、突如出てきて意味不明なことを叫ぶ矯太郎には驚きを隠せない。
一瞬だが足を止め、戦力を値踏みしている。
だが、時間稼ぎと言うには短すぎる時間で、また動き始める。
グースも長年の勘から、矯太郎の年齢と骨格を見極め、自分の驚異に成らないと悟ったのだろう。
まぁその通りではあるのだが。
「覗き見趣味のおっさんが、俺を止められるもんかよ」
グースは下卑た笑みを見せ、そのまま矯太郎を殺して押し通るつもりのようだ。
腰の裏にある鞘から銀色の刃を抜きながら近づいてゆく。
矯太郎を素人と侮って、あのステップは使っていない。
ただ単純にナイフで斬り殺すつもりだろう。
矯太郎は両手を顔の高さまで上げると、それに迎え撃った。
構えなどではない、素人臭さ前回の防御反応に見えるように。
結果、男は誘われるように腹部にナイフを突き立てたのだった。
「博士!!」
悲痛な叫び声も、どこから遠くから聞こえるようだ。
矯太郎は今まで感じたことの無い痛み、腹に電気が走るような感覚が走る。
刺された部分が焼けるように熱い。
血が流れ出る感覚がこれほどに不快なものとは知らなかった。
だが彼はそれに耐えながらも男の手を掴むのだ。
「……逃がすものか!」
鬼気迫る顔にたじろぎ手を引き抜くグース。
戦力的には脅威では無いが、常軌を逸しているように見えたのだろう。
ナイフが腹から抜けたことで、内部から溢れるようにして流れる血液。
しかし、矯太郎は抜いたナイフを持つ手に、いまだ必死ですがり付いていた。
「くそ、しつこいんだよお前は!」
致命傷を与えた筈の男に狼狽え、ナイフを持たない手で、拳を叩き込もうとした瞬間だった。
その男の体が真横に吹き飛んだ!
離すまいとしがみついていた矯太郎ごと、さっきまで彼が隠れていた岩肌に激突したのだ。
腹部の刺し傷と全身を強かに打った痛みに気が遠退いていく……。
────薄れ行く視界の中に、彼らを見下ろす銀髪の少女の姿があった。




