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傀儡の少女

 矯太郎は物陰に身を潜めながらそれを見送る。


 瓦礫の山を越えると、思ったよりも中は広くなっており、そこでローランドが一人の男を斬り伏せた所だった。

 男は体が痺れている様子で、全身を動かそうと必死になっているが、口から泡を吹いて立ち上がれないでいた。


「むむ、呼吸困難になっているのではないか? 錬金薬の効果を見誤ってしまったか」

 隠れていても矯太郎の観察は止まらない。

 どうやら痺れ薬の効果が強すぎたようだ。

「これは改善の余地ありだな」

 自分が実際に戦わないからといって余裕である。


「お前達だったのか!」

 恨み言を吐くように発せられた言葉に、視線が集まった。

 矯太郎より少し若い位の年齢の男が、先程の爆撃のせいか薄くなった頭から血を流しながら喚いていた。


「ええ、墓場から舞い戻って来ましたよグースさん」

 凄みを効かせたローランドが、剣を血振りして鞘に納める。

納刀することで、もう一度剣に痺れ薬を塗布できるからだ。

 あの安物の剣では切れ味もそこそこだが、少しでも手傷を追わせることができるなら問題は無い。

 実際に先程斬られた男の出血量は然程(さほど)ではないが、動けずにまだもがいているのが物語っているだろう。


 ローランドはその剣を抜刀し直すと、グースという男に向ける。

「ですが、戻らなかった仲間が居ましてね、そのお礼参りにこうして参上したわけです」


 足元に散乱した木板を避けながら、じりじりと差を詰める。


 この掘っ建て小屋だった場所には4人の敵がいて、そのうち一人は足元に転がっている。

 そうなると、残りはリリーとメイが一人づつ受け持てばいい事になる。


 グースも人数的な有利が無い事に焦ったのか、未だ破壊を免れた奥の部屋へと助けを求めるのだった。


「お(かしら)! アイツを、お願いしやす!」

 無様に後ずさりしながらも、彼等には奥の手があるのか、希望に(すが)ってわめき散らしている。


 次の瞬間、まだ残っていた奥の部屋の壁を吹き飛ばし、後方からすさまじい勢いで何かが飛び出してきた。

 それは、ローランドへと一直線に突進し、彼が辛うじて盾にした剣に蹴りを入れていた。


「女の子!?」

 それを知らない矯太郎達は、目を疑う光景に唖然としていた。


 まだうら若き女性に見えるが、それを受け止めたローランドが衝撃を流し切れずに大きく後ずさったからだ。


 着地したその女の子は、血の気のない顔でローランドを見据えながらその場に(たたず)んでいる。

 腰まである銀色の髪はボサボサとしており、しばらくクシを通していないであろうことが伺える。

 それ以前に、体に(まと)っているのが擦り切れた布のような服で、物乞いでもまだもっとマシなもの着ているのではないかと思わせた。


「じ……女性に剣を向けるのは不本意ですが……」

 初手からのあまりの強打に、手が痺れていたローランドは、一撃で力の差を理解させられていた。

 それでも実力的には自分がこの女の子の相手をしなければいけないと、剣を構え直す。


 それを待っていたかのように銀髪を翻した女の子は、ローランドへと肉薄する。

 顔を狙った回し蹴りへ、剣の刃を立てて応戦しようとすると、足を縮めて回避される。

 女の子はその回転のまま軸足を浮かせると、着地と同時に足元を払いに移行する。

 剣士はその性質上足元を狙われることを嫌う。

 一度下げた剣を攻撃に使うためには、どうしても一手遅れてしまうからだ。


 だが、ローランドも実践を経験した者。

 剣で受けずに飛んで(かわ)す。

 そのまま剣を振り下ろせば、高威力の刃が女の子を襲うはずだった。


しかし相手が女性だからと躊躇(ちゅうちょ)したのかもしれないし、使い慣れた武器でないからかもしれない。

必殺のタイミングで彼はもたついてしまっていた。


 それを好機と見たのか、女の子は着地と同時に両手両足を地面に着けるとバネのように使って急加速。

 ローランドが剣を握る手に向かって頭突きを(おこな)った。


「何っ!」

 ローランドは剣術道場ではこんな攻撃を(さば)いたことはなく、一瞬だが反応が遅れた。

 飛び上がっていた事もあり、その衝撃を受け止めきれずに吹き飛ばされる。


 綺麗に着地はしたが、不意打ちに近い攻撃で指を庇うことはできなかった。

 剣を振るに大切な指を痛めたようだ。

 顔を(しか)めるが、状況を変えるだけの時間はない。


 すぐさま女の子はくるりと背を向けて、執拗にその手ばかりを狙って蹴りを繰り出している。



「ははは! 見たかネクロマンサーの秘術」

 ローランド達を嵌めた男は、さも愉快そうに高笑いしている。


「貴様は!こんな年端もいかない少女を傀儡(くぐつ)にして!」

 ローランドの怒りは少女にではなく、グースに向いていた。


──ネクロマンサーの秘術。

 それは禁忌とされる魔法のひとつだ。

 200年ほど前にシグナール魔法学校が出来てすぐに、学校では教えなくなった外法。

 書物として書き残すことも厳罰とされた。


 今ではカルトな魔法使いが、口伝にて継いでいるために、一般的には出回らないものだ。


 今では歴史書に過去の記述があるだけで、矯太郎の知識の中にも魔法自体の情報は無いものだった。


「ハハッ!お前は子供が好きなのかよ、俺は子供すぎて性欲も湧かねぇけどな」

 下品に笑うグースに、更なる怒りを募らせるばかりだが、ローランドに彼を攻撃する余裕などない。

 むしろ、徐々に押されていた。


 だが、同じ熱量で怒りを感じているものがもう一人居る。

「外道め!」

 叫びながらリリーはグースに向け魔法を放った。

 慣れた低級の魔法であればごく短い詠唱で攻撃ができるため、開戦してしまうと大きな魔法は打ちにくい。

 だが低級とはいえサッカーボール程度の火球が、男を目掛けて飛んでいったのだが。


 しかしシーフはそれを軽々避けて見せた。

 不意に視界から移動したような、不思議な動きだ。


「おっと、前衛の居ない魔法使いなんて、殺してくれって言っているようなもんだぜ?」

 戦況が自分の方に傾いたと感じた途端強気になったグースは、不思議なステップでリリーへと迫ったのだ。

 それは人間にそんな動きができるのかと思うほど素早く、目で追うのがやっとだった。


 リリーもそれに何とか反撃を試みようと魔法を詠唱し始めたが、それが終わる前には男が肉薄している状況。


 ローランドは未だ少女に押されていて抜け出せない。

 遠巻きに見ているだけの矯太郎もそれに息を飲む。


 何も出来ないまま、グースが腰から抜いた短剣がリリーの首筋を狙ったのだった。

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