残るは仇のみ
焚き火の周りで寝ている盗賊を縛り終え、隅っこの方に並べ終えたメイが矯太郎達の方を向く。
『ここは片付きましたが、奥の方はどうされますか?』
残りの数人が立て篭もっている掘っ建て小屋というのは、その焚き火の奥にあった。
削り取られた岩肌に守られ、直接の雨が掛からなかったことから、長年放置されても形を保っていたのだろう。
だがそれも、木板で無骨に作り上げたものであり、大きな魔法一つぶつければ、盛大に破壊できる程度のものだ。
『いまそちらに向かう』
矯太郎の言葉を聞いたローランドとリリーは、岩場の側面を滑るようにして、高さ4m程の地面へ着地していた。
矯太郎もそれに続こうとしてはみたものの、一般中年にとって、その高さは恐怖に感じたようで、両手両足で岩を掴んでズルズルとゆっくり滑り落ちる。
残り2m程でその手が疲れたのか、つるんと手が滑り、お尻から落下してしまうのだった。
そんな恥ずかしい醜態を晒してしまった矯太郎は、少し照れながらリリーたちの方をチラリと伺ってみたが。
彼らはテキパキと盗賊の武器などを取り外して、無力な状態にしていた。
まぁ起きたところで、手足を縛られているこの状態ではなにもできないだろうが。
矯太郎は特にやることも無かったので、その場を観察していた。
焚き火を囲んでいたこの広場は、掘っ建て小屋の管理棟からでて直ぐに広がっている。
ここがまだ採掘されていた時期には、工員達が朝礼をしたりしていたのではないかと推測される。
そこに寝っ転がる人数だけでも10人以上。
見張りなども含めると、わりと大所帯の盗賊団だったのだろう。
あのグースという男の単独犯であれば、コカトリスが倒されたという段階で、別の街に雲隠れしてしまったかもしれない。
だが人数が多いとフットワークが重くなるもの仕方が無い。
1日経ってもまだこの根城にいたのはそういう理由であり、矯太郎達が準備して襲撃できる時間を稼げたのも、運が良かったというか、彼らの判断が鈍かったのに救われた形だ。
もっとも、高価な薬を使ってまで石化を治療して、反撃に転じるものがいるとは考えなかったからかもしれないが。
ようやく作業が終わったのか、岩の影で観察している矯太郎の元に、3人が集まってきた。
「攻めるプランはございますか?」
早速メイがお伺いを立てる。
武力的に何の力になれなくとも、作戦参謀は矯太郎であるのは間違いないからだ。
「そうだな、一番堅いプランであれば、メイが眠り薬か痺れ薬の炸裂弾を持って単騎特攻だろうが」
息すらしていないメイだけが、その中で縦横無尽に暴れられるからだ。
広場ではシャーリーが自爆していたようだが、本来こういう形で使うために作成させていた薬だったのだ。
しかし、この戦いは矯太郎のものではない。
復讐の闘志に燃える二人こそがここを叩き潰さなければならないのだ。
「メイ、中に人間は何人いるか分かるか?」
創造主の問いに、メイは掘っ建て小屋の方に視線を向けると、じっと動かなくなる。
きっと内部を詮索しているのだろう。
ややあって向き直ると、知り得た情報を吐き出してゆく。
「音感ソナーによると4人、熱源関知であれば3人となっています」
「なんだその微妙な数字は」
「暖炉の側等の熱源に被っている者か……温度が低い人間以外のものが居る可能性があります」
矯太郎は一瞬思考が迷子になりかけてはいたが、すぐさま思い直す。
ここは地球ではなく、その常識が通用しないものもこの世界にはあるのだと。
「魔力を媒介に動くゴーレムだったりすれば、熱が発生しない可能性はあるよな」
知識から捻りだすも、対策などは分からない為に、矯太郎は頭を抱えたが。
「どっちにしろ4人以上は居さなそうって事ね?」
リリーはあっけらかんにそう言うと、呪文を唱え始めた。
「リ・フセウ・ラフコ・フン・ブエル……」
それは彼女に装着されたメガネにインプットされた呪文。
「ブラストバーンか、建屋ごとぶっ飛ばすつもりか?」
矯太郎だけはその魔法の詠唱が分かる、元々彼の知識から抽出した情報なのだから。
ついでに言うと彼はその大胆な行動に、ちょっとした爽快感を感じていた。
これぞ異世界という戦い方に思えたからだ。
スワットチームがコソコソ潜入する感じではなく、いきなり建物ごとロケットランチャーで吹っ飛ばして、あぶり出された敵を倒す感じだろうか。
あまり戦闘では使わない呪文なので、やたら詠唱は長かったが、息を殺してこっちの出方を探っている相手なのだから、十分な時間を掛けることができた。
リリー・フロマージュは詠唱の終了と共に杖を掲げると、爆発指定地点の木の扉の辺りに陽炎が揺らぐ。
逃げ水の様に空気が熱された事で起こる視界の歪み。
それが渦巻くように回りの空気を喰らい、赤く光り始めた。
「伏せてくださいね、行きます」
言われる通り矯太郎たちはその場にしゃがみこむ。
瞬間、花火のような爆音、爆風と高熱の風が掛け抜ける。
50m離れた広場の反対側に居てこの威力だ。
中に居るものはたまったものではないだろう。
目を開けると同時にローランドは既に戦場へと走り込んでいた。
そしてメイは矯太郎に覆い被さるように、爆風を軽減してくれていたらしい。
「大丈夫ですか博士?」
普段は嫌味しか出てこないような口から、純粋な心配の言葉が出たことに若干の驚きを感じながらも、矯太郎はメイへと指示を出す。
「大丈夫だ、メイはあの二人をサポートしてやってくれ」
その言葉にひとつ頷くと、メイは走って倒壊した木材の破片散らばる戦場へ飛び込んでいった。




