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不安な行進

「とりあえずシャーリーの事と、余裕があれば中間報告だけ聞いて俺は戻った方がいいかもしれん」

 矯太郎はメイへ眼鏡通信を送ってみた。

 あまり離れすぎていると使えないが、ここまで進んで来たことで通じそうだ。


『博士、どうかされましたか?』

 メイの声は平坦としていて、今が余裕な時なのか、敵にパワーボムをキメているのか把握できない。


「シャーリーが、そっちに向かったかもしれないんだ」

『それは一大事ですね、作戦中見つけたら保護いたします』

「すまんが頼む」

『わかりま……シャーリー様がいらっしゃいました──そんな、まさか!』


 鉄仮面メイの驚愕の言葉と共に、電波が途絶えてしまった。

 場所を移動し、何かの陰に入ったのかもしれない。


 そんな中途半端な所で通信が途絶えたことで、矯太郎は余計に心配になってきてしまうのだった。

「あのメイが取り乱すなんて……」

 もはや一刻の猶予もないのではないかと思った矯太郎は、奥の手を取ることにした。

 彼は自分の手のひらを上に向けて、中指の先を摘まんでみる。

 普段は気にならないそこに、細いクモの糸のようなものが現れた。

 それは菌糸のように粘り気を感じさせながら、月光にキラリとその存在を光らせる。

 この先にリリーが居るはずだ。

 矯太郎はその糸を三回引いた。

 ピンと張った糸が少したわんで、発光が消えてゆく。


「伝わっただろうか」

 半信半疑な部分はあったのだろう。

 その紐の張っていた方向へ慎重に進みはじめる。


 星明かり程度の暗闇ではほとんどなにも見えないが。

 何度(つまず)いても動かずには居られなかった。

「シャーリー殿、メイ……無事で居てくれよ」

 不安が彼の足を前へと進ませる。

 現地に行っても何も出来ないだろう。

 むしろ足手まといになるかもしれない。

 そういう気持ちもあったが、それでも勝手に足が前に出るのだった。



「ガサッ」

 ふいに前方から落ち葉を踏む音が聞こえたために、足を止める矯太郎。

 何の警戒もなくただ歩いていたのだから、きっと相手にはもう気付かれているに違いない。

 こそこそ隠れると余計に怪しいと思った矯太郎は、その足をまた前に出してゆく。

 同時に後悔していた。

 草むらを歩く際に足音を減らすインディアンの歩法や、こちらの世界でのスカウトの足運びを頭に叩き込んでいたはずなのに。

 焦りにその知識の一つも実践できなかった。


 とはいえ、悔やんでいるだけでは何も好転しない事も理解はしているのだ。

 彼は奥歯を噛み締めつつも、いま出来ることを考える。

 まずは相手がリリーなのか敵なのか探るため、リードの魔法を利用する事にした。


 指先から出現した糸を三回引く。

 きっとリリーなら何かしらの反応を示してくれる筈だからだ。


「あぁん」

 暗闇に聳える大樹の影から悩ましい喘ぎ声。

 どういう通達の仕方をしてるのだろう?


「リリーか!」

「ヨツメ様!」

 彼女は一目散に矯太郎に駆け寄った。


 暗闇の行進、いつ敵と遭遇するか分からない恐怖、そして不安と焦り。

 一般市民である矯太郎の心を多少なりとも疲弊させる要素が満載過ぎて、彼女が見えた時には足の力が抜けそうになってふらついてしまう。

 それを支えるためか、走ってきた勢いそのままリリーは彼に抱きついたのだ。

 眼鏡が彼の胸に当たらないよう、ちゃんと横を向いてるところに感心するとともに、その体を抱きとめる。


「大丈夫ですかヨツメ様」

「それより、状況はどうなってるんだ?」


 最後にメイが残した言葉が気になって仕方がない。


「私達は半数程度を殲滅していったのですが、残りの奴らが砦の前で見張りが酒盛りをしててですね。さすがに明るくて人数も多かったので手を出しあぐねいていたところだったんですが……」

「ですが?」


 そこで一端困ったような顔をしたリリーだったが、奇っ怪な状況でも言葉にしないと伝わらないと感じたのだろう。


「シャーリー先輩が急に現れて……ほら、先輩ってどうみても子供じゃないですか?」

 確かに彼女はともすれば小学生高学年くらいにも見える。

 身長もそうだが、色々未発達な部分があるからだ。


「急とはいえ子供だと思った見張りが油断したところを、自分もろとも錬金術の薬でボンっと」

リリーは手のひらを広げながら爆発するジェスチャーをする。

「ボン、ってどうなったんだ?」

「煙が立ち込めたと思ったらみんなバタバタ寝てしまって、慌ててメイさんが担ぎ出しに行ったんです」


 話を聞いて何となく状況を察することができた矯太郎。


「睡眠爆弾か。錬金術で言うところのネムネム薬とポムポム薬の混合物だな」

 空気にふれると気化する睡眠薬と、衝撃でごく僅かな爆発を起こす薬を混ぜて投げると、霧状に四散して、そこから一気に気化する手投げ薬の一種だ。


「そうか、なにより誰も怪我がなくて良かった」

 矯太郎はほっと胸を撫で下ろす。

 まさか最後にシャーリーが活躍するとは思わなかったが、彼女も彼女なりに力になりたいと考えていたのかもしれない。


 ……たぶん。

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