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情報を集める

 宿屋に帰ってくると、リリーとローランドが待っていた。

 矯太郎達の用事自体は半日ほどで片付いた事もあって、まだ日は高い。

 月の木漏れ日亭の食事処も、いまだ遅い昼食を取っている客が残っているくらいの時間帯だ。


「もう、情報は集まったのか?」

 シャーリーに癒された矯太郎の心は、すっと真面目モードに切り替わった。

 精神が不安定だとなかなかここに手間取ってしまうのだが。

 シャーリーのあの天衣無縫な明るさには助けられることが多そうだ。


「早い方がいいだろう、聞かせてくれるかな」

 表情から、察した矯太郎は手短に話を切り出させる。


「はい、コカトリスの洞窟の近くに彼らが巣くっている拠点があるそうです」

 ローランドが状況を説明するために地図を広げる。

 それは簡素なもので、この世界に測量などの高度な技術が発達していない証拠でもあった。

 矯太郎はメイへと目配せをすると、彼女の頭の中にあるこの街の地図と照らし合わせるように指示をした。


「どうやら足がつかないように、数人でローテーションを組んで新人を()めていたようですね」

 苦虫を噛み潰したかのように顔をしかめるローランド。

「魔導学園の学生は富裕層が多いからな」


 スタートダッシュでも、それなりの装備やお金を持っているのだろう。

 小金稼ぎと以前語ったが、きっとそのクランを賄えるだけの金に代わったのだ。


「実際に仲間になって連れて行く者の他にも、相手の身元調査を行う係、それに盗んだものを遠くの町で(さば)く係と役割分担がされていて、人数はそこそこに居る様です」


 矯太郎は腕組をしながら(うな)る。

「思って居たよりも大がかりな組織のようだな」


 手にかけた相手が貴族だったりした場合に、面事に巻き込まれるのは嫌なのだ。

 地位の無いものであれば、わざわざ私財を投げうってまで、自分たちを探す事は無いとタカをくくっているのだろう。


 今回は珍しく蘇る事が出来ただけで、まさかご本人登場とは思ってもみないだろうが。


 敵の本拠地や勢力がある程度書かれた地図を見ながら、確度のある情報を一晩で集めてきたことに、矯太郎は感心するとともに、一抹の不安を感じていた。

 腕組み、しかめっ面の間から、チラリとローランド達の方を見る。


「相手に君たちが生きている事を悟られた可能性は?」

 その言葉の意味するところを瞬時に理解したローランドが、話し相手に安心感を与えるような爽やかな顔で話し出す。


「実は、コカトリスが倒された話題というので酒場は持ち切りだったんですよ」

「そりゃぁそうか、こんな田舎町だもんな。ギルドに詰めてた連中も俺達の話は聞いてたはずだし」


──ローランドはまず信用できる友人を雇った。

 その若者は一杯ほど酒を飲んでから。

「コカトリスを退治するってパーティ募集見て来たのに、着いたら倒されてるのかよ」

 と大袈裟に嘆いてみせた。


 実際昨日までは、件のクランが出していた募集という名の罠が貼られていたのだ。

 タイミング的にはおかしい話じゃない。


「残念だったなボウズ!」

 と声を掛けてくる男に擦り寄る。

「この村、コカトリス以外に何か儲け話は無いの、おじさんは依頼出してたクランの事知ってる?」

 そうやって聞くと、男はビールジョッキを片手に残った手の親指を立てて、それを背後に向けた。

 その先には部屋の隅で固まって飲む3人の男がいるのが分かる。


「アイツらに聞いてみな」

 笑いながらも、おじさんはもう若者の事など知らないとばかりに、卓の友人と談笑を始めた。


 雇われた若者は、カウンターに一度立ち寄ってから、エールを一杯手に持って、先程教えてもらった席へと近づく。

 目つきの鋭い男が、フード越しに若者を睨む。


「すみません、コカトリスの討伐依頼出してたクランについて聞きたいんですよ」

 目付きの鋭い男は黙っている。

 この気さくな若者がどういった意図で接触してきているのかというのを値踏みしているようだ。


「いやぁ、依頼を見て3日掛けて来たのに、到着したら倒されてたなんて、一足遅かったみたいで。そのクランは今、報奨金で潤ってるんでしょうねぇ」

 羨ましそうに話しながら、持ってきたエールをチビりと飲む。

 そして美味しそうに息を吐く。


「何が聞きてぇんだ」

 不機嫌そうにそう返す男に怯むことはない。


 実はローランドの友人というのは、魔導学園の同期なのだが。

 シーフ職についており、かなり成績優秀だった者だ。

学校では、専門的な知識のひとつとして、こいいった場での立ち回りも教えている。


「おっと、来ましたね」

 男に問いに答える前に、店員がエールのジョッキを3つ抱えて持ってきたのだ。


 友人は知っていた。

 この宅には飲み物が置かれていない。

 きっとそれを頼む金を使いたくないのだ。

 もちろんコカトリスの報奨金など彼らに入らないのも知っていて、エールを美味そうにもう一口飲む。

 男たちがゴクリと喉を鳴らした。

 同時に飲んだ時に、高価なブレスレットが袖口から見えるようにするのもポイントだ。


 下っ端であろう彼らからすると、状況把握も出来ていない馬鹿が、金を背負って近づいてきたと感じたかもしれない。

 目先の稼ぎが無くなった今、この男をどうしても手放したくなくなっただろう。


「その羽振りのいいクラン、紹介してもらいたいと思いまして」

 若者はそう言いながら店員に目配せし、席の三人の前に飲み物を配膳させるのだった──。


 そういう流れを掻い摘んでローランドが話すと、矯太郎の眉間のシワも無くなってゆく。

「餅は餅屋か……素晴らしい情報集収納力だな」


「はい、彼は卒業と同時に、大手にスカウトされるほどの逸材でしたからね」

 敵に回すくらいなら、手元に置いておきたい人材だったのだろうと容易に推測できる。


「そして、そのクランですが、近々拠点を移す予定だそうです」

 これに関しては矯太郎も可能性を考えていた。


 きっと明日にはあの洞窟へ大勢の人間が調査に入る。

 そこに転がっている石像の身元に心当たりがある者も多少はいるだろう。

 少なくとも、モンスター管理ギルドでたむろしていた連中は、その仲間を持ち出したいと考えるだろうから。


 その中でグースというシーフが加担しているクランを訝しがる者が出るかもしれない。

 特にこの村には今、コカトリスを倒せるだけのパーティが存在するのだから。

 少しでも早く退散した方がいいのは目に見えている。


「撤退するとなると、明日だろうな」

「はい、流石ですねヨツメ様は」

 矯太郎の推測は当たっていたようで、リリー・フロマージュからねっとりとした尊敬の念を感じる。


 ここまでは彼らの仕事だ。

 そしてここからは矯太郎の仕事に移る。


 敵が大所帯となると、こちらも総力戦になるだろう。

 そして、こちらには治癒師、錬金術師、無敵ロボと、トリッキーな手駒が揃っているわけだ。

 作戦を立て、いかに安全に事を運ぶかを考えるのは、現場では何も出来ない矯太郎の仕事だ。


「作戦決行は今夜だ、それまで君たち二人は休んでいてくれ」

 矯太郎は彼らの不安を解消するように、自信ありげに笑って見せるのだった。

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