46有用素材
その後ただ沈黙を守るかのようにひたすら歩くのに耐えられなくなったのか、空気を変えようとしたのか、モンスター管理ギルドのラングが口を開いた。
「ところで、ヨツメさんたちはコカトリスの素材はどうされますか?」
すぐに明るい顔が出来るはずもないのだ。
時間や行動しか彼らを真に慰めるものは無い。
今は彼らにかける言葉はもう無いのだろう。
そう考えた矯太郎もその話題の転換に乗ることにしたようだ。
「俺は良く知らないんだが、あんな大きな鶏のどこを何に使うんだ?」
その質問にラングは、初対面の時に感じた人付き合いの悪そうな雰囲気を忘れ、好きな話をする際のオタクのように早口になる。
「まずですね、羽は大型のクロスボウやバリスタ等の矢羽根に利用されますね。岩を嚙み砕く事のできるくちばしは、そのままピッケルに利用されたりもします。あとはコカトリスにしかない貴重な部位としては、石化の呪眼ですかね」
目が合っただけで石にされるという能力は、あの鳥を天災級まで引き上げた強力な力だ。
しかし、だからこそその取り扱いには慎重になるべきだろう。
矯太郎的には興味が無い訳でもなようだが。
「そんなおっかないもん貰っても困るな、メドゥーサの首じゃないのだから、持ち歩く訳にもいかないだろう」
バックパックの中を覗いた時に、ふと目が合ってしまって石化という想像をしてしまって、苦笑いを浮かべている。
少しビビってしまった矯太郎に対して、クスクスとラングが笑った。
それは年相応の少年のようで。
長い前髪の隙間から、怯えるように人の表情を伺う目つきをするよりも、よっぽどそっちの方がいいと矯太郎は思う。
人懐っこい表情のまま、ラングは口を開いた。
「大丈夫ですよヨツメさん、コカトリスが死んだ時点で、その呪いは発動しませんから──でも、力だけは残っているので、錬金術や魔法の材料や触媒に出来るんですよ」
その言葉を聞いて、耳をぴくぴく動かしたのはほかでもないシャーリー・アルクウォールだ。
「何ですって? じゃぁそれは私が頂くとするわ!」
コカトリスの目を使う錬金術など矯太郎も知らない錬金術のレシピ。
当然シャーリーにも知識はないはずだが、錬金術に使えると聞いただけで欲しくなるのは、この道に少しでも足を踏み入れた者の性なのだろう。
勢いだけのシャーリーに渡してしまうには惜しいと感じた様子。
「使う予定のない物は売り払ってお金に変えた方が、何かと都合がいいんじゃないか?」
お金に変えたことにして、こっそり研究しようとそういう提案をしてみたのだが、シャーリーは既に矯太郎の言葉など耳にも入っていないようで、貰う気満々だ。
眼鏡の奥であれこれと妄想を始めてしまった。
かくいう矯太郎も石化の呪いを解読するためにどうしても手元に置いておきたいと考えてはいたが。
後で、丸っこい石ころを「呪眼」だと偽って渡しても満足できそうなので、一旦頂いて隠しておこうと決めたようだ。
そうと決まると、これ以上深堀されるのは面白くない。
早速話題を別の物に振ることにした。
「他には何かないのか?」
ラングに向き直ると、更に言及する矯太郎。
水面下の攻防など露知らず、ラングは真面目にそれに答える。
「砂ズリですかね」
「砂ズリ......焼き鳥なら好きな部位なんだが、あの巨体となると、かなり食べごたえがありそうだな」
半分冗談めいた口調でそう言ったことで、ラングも少し笑った。
「まさかぁ。石にした相手を飲み込んで、溜めておく器官ですよ? 食べたいですか?」
通常の鶏は、食事とは別に小さな石ころを飲み込んで消化の助けにしているのだが。
あれだけ大きな生き物だ。
飲み込む石もそれなりの大きさになるのだろう。
その様子を想像して矯太郎は苦笑を禁じ得なかった。
腹を掻っ捌いた際に、石化した人間の頭部がゴロゴロ出てきたりしたら、食欲も失せるというものだ。
「ただ、コカトリスの砂ズリは、石化ガスの発生装置にもなっているので、こちらも錬金術師達に高く売れるんですよ」
やはりそういう使われ方をするのだろうと何となく察しは付いていたが。
「そんなもの解析されたら、軍事兵器にも匹敵する脅威になりそうだな」
売るか売らないか迷うところだ。
「石化ガスなんて考えたくないですね、回復ポーションはかなり高価ですし」
ラングの当たり前の返しに、そういえばと思い当たった矯太郎は、くるりと振り返ってメイの方を向いた。
「メイ、そういえばシャーリー殿が作ったポーションってのは幾らかかったんだ?」
「大金貨50枚くらいですね」
急に振られ他にもかかわらず、よどみなく淡々と答えるメイだったが、周りの人間は凍り付く。
大金貨50枚となると、日本円で言うところの500万円前後となるのだから仕方なくもある。
相変わらずシャーリーだけは自分の手柄だといわんばかりに胸を張っているが。
「それは誰が払うんだ?」
矯太郎の言葉に、関係者はもう一度石になったかのように固まり、冷や汗をかくのだった。




