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45仲良し3人組

 商人の娘でありながら、奔放に育ってきたリリー・フロマージュは、魔法の素養が高い事から、両親の期待を背負って学園へと入学した。


 そこで知り合ったのが、優れた剣士を排出する家系の生まれであるローランド・サンロッド。

 そして、地方貴族の才女であったトリーシャ・コズロヴァだ。


 才色兼備を地で行くトリーシャが、平民出身であるリリーやローランドに対しても垣根なく接したことで、3人は無二の親友と呼べる仲になるのにそう時間を要す事はなかった。


 実際貴族とはいえ、トリーシャは家を相続するような立場ではなく、むしろ政略の為に結婚させられる運命なのだと嘆いていた。

 シグナール魔導学園に通うのも、いずれは家の為に嫁いでゆく彼女の価値を高めるための場所にしか過ぎなかったのだ。

 女性の身で剣士を目指したのは、彼女のささやかな反抗の一つだったかもしれない。


 そんな彼女に率いられ、リリーとローランドは学生の間からパーティーを組んではモンスターを倒すためにあちこち出かけていたようだ。


 盾を持ち先頭に立つローランド。

 両手持ちのブロードソードを振り回して戦うトリーシャ。

 それを補助するリリーの組み合わせは相性がよく、調子良く稼いでいた。


 若い頃の2年など、あっという間に過ぎていく。

 この段階になっても、運良くトリーシャに縁談の話はなかったこともあり、卒業してもまだ三人で一緒に居れることに喜んだものだ。


 とはいえ学生が終わると、なにか仕事をしなければいけない。

 つまりは就職活動が待っている──。


「私たちは実績を上げて、大手クランへの加入を目指していました」

 すっかり日の落ちた街道を、最寄りの村まで歩いてゆく途中、リリーは事の顛末を語るのだった。


 リリーが言うクランというのは、モンスターハンターやトレジャーハンターなどの危険な職業に関する互助会のようなものらしい。

 強さに合うモンスターを紹介してくれたり、戦闘技術の向上を助けてくれたり、万が一働けないような怪我をし退団する際には、見舞金が出たりする。

 常に死と隣り合わせな職業につく者たちには欠かせないシステムなのだ。


「しかし、適当にクランを選ぶ訳にはいかないのです。上納金が法外だったり、待遇が悪かったり、危険な仕事を紹介されたりする悪徳なクランもあるから」

 真っ直ぐな背筋で前を向いて歩くローランも、今はあの悲しい顔をしていない。


 その発言を追いかけるように、リリーも口を開く。

「私たちは大手クランに入れるように、もう少し実績を上げたかったのね」

「そこで出会ったのがあのグースというシーフだった」

 名前を言った時、ローランドの拳に力が入る。

 悔しさや怒りのようなものがその語調から感じられるようだった。


「グース?先程言っていた募集掲示板の臨時メンバーか?」

 矯太郎の問いかけに、こちらも下唇を少し噛むようにしながらリリーが頷き、口を開く。

「あいつは、コカトリスの石化が効かない薬を持っていると言ってたのに……」

 リリーの言葉で少し間が空いた。

 二人の表情は硬く、歯ぎしりが聞こえそうなほど奥歯を噛んでいるようだった。


 そして二人同時に、重いため息を吐き出し、話を再開する。

「私たちは、あの男にカモにされたみたいね」

「僕たちの財布や武器、金目のものは全て取られているようだな」


 その言葉に矯太郎は二人の様子を一見する。剣士であるはずのローランドの装備品には盾も剣も見当たらない。

 そういえば石像になっていたリリーも、突き出していた手に杖らしきものはなかった。


 実際この懸念については、矯太郎は既に予想が付いてはいた。

 あの辺に転がっていた石像は、装飾品や武器などお金になりそうなものは殆ど無かったからだ。

 最初は目ざとい盗人が盗んで行ったものだと思ってはいたのだが。


「道理で、そのシーフの石像が見つからないわけだ」

 状況を理解した矯太郎はため息を落とす。

 あの場所には若い人間が多かったように見えた。

 血気盛んな若者だからこそ無謀にもコカトリスに挑んだのではないだろうかと考えていたが、リリー達のように騙されて連れてこられたとすれば、やるせない気持ちになってしまう。


 犯罪の片棒を担がされた哀れなコカトリスはもう居なくなったので、これ以上の被害は出ることがないだろうが、ひどい話なのには変わりない。


「あいつ、殺してやるわ!」

 つい先ほどまで泣いていたリリーは、既にその目に復讐の炎を燃やしているようだ。

 だがそうでもしないと、この場に座り込んだまま動けないでいるかもしれない。

 復讐も立派な生きる理由だ。


 今にも走りだしそうなリリーをローランドが止める。

「まずは一度町へ戻ろう、君の装備だって無いんだ。前衛職に素手で挑むつもりかい?」

 彼だって同じような気持ちなのには違いないだろうが、冷静に言葉を吐き出している。

 彼らの憎しみは、彼らのものだ。

 それを止める権利も、自分には無いのだと矯太郎は思えた。


「話を聞く限り相手は命のやり取りに遠慮などはないようだ。無策に挑むよりも計画を立てたり、仲間を募ったりして確実に復讐すべきじゃないか?先ずは冷静になるために、体と心を休める所からだろう」

 このメンバーの中で飛び抜けて最年長である矯太郎の言葉が響いたのか、リリーも怒りを心の内に押しとどめてくれた様子だ。


「少なくとも、コカトリスを倒すだけの戦力はこちらにある。俺達もその話を聞いて黙っては居られないからね」

 矯太郎はそう言いながら、目線をライフへと投げるのだった。


 亡くなったトリーシャと、ライフ・グリンベルに直接の接点は無かったようだが、友人であるリリー・フロマージュが落ち込んでいて気にならないわけが無い。

 実際自分の事のように涙を流し、その悪辣なグースという人物に怒りを感じているようだ。


 矯太郎自身、長い人生の中で少しは身に覚えのある感情でもある。

 大人になったことで一歩引いてその感情をコントロール出来はするが、それでも目の前の少女が......あの花が咲いたような笑顔を見せることの出来る無垢な少女が、涙を流す所や、怒りに顔を歪めるのを見たくはなかった。

 だからこそ。

「俺は、出来るだけの援助を君たちにしたいと思っている」

 気づけば心からそういう言葉を彼らに投げていたのだった。

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