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44助けられた命

 5分ほどの探索で、二人を見つけることが出来たのだが……。


「そんな……トリーシャ!」

泣き崩れるリリー。

 案の定というべきではないが、彼女の級友はそのほっそりとした腰から二つに折れてしまっていた。

 このまま彼女を石化から戻したとしても、苦しみを与えるだけであるのは明確だ。


年端もいかない少女が、その友人を亡くしたのだ。

その痛ましさに、声を上げることすら躊躇われるようだった。


しかし、彼女の慟哭は長く続くことはなく。

しゃくりあげながらも、その目に溜まった涙をぞんざいに袖で拭きあげながら、顔を上げる。

「彼だけでも、元に戻してあげなきゃ」


 運の良いことに、もう一人の男性は倒れては居たものの、指の破損程度で殆ど無傷な様子だったのがせめてもの救いだ。


 ライフを中心に、男子の方に包帯を巻きつけてゆく。

 石化解除ポーションは残り少ないので、節約しながら浸していくと、先に薬液が効いた部分がモゾモゾと動き出す。


「ここは、どこだ?」

 男らしく低い声で紡がれる言葉。

 イケボというやつだ。


顔まで包帯に包まれているからか、状況を把握できずに、まだ硬化している腕を無理やり動かそうとするのをライフが止める。

「待っててください、今包帯を外しますね」

 イケボに対して慈愛に満ちたライフの声はこの状況でも人を安心させる響きがあるのだろう、体もろくに動かない包帯まみれの男も黙ってされるがままになっている。


 顔の部分の包帯が剥がされると、中から短く切られた金髪が出てきた。


「まだ動かないでください、今から折れてしまった指をくっつけます」

治療のために手の破損部位は最後に石化を回復させたのだろう、その部分にポーションの最後の残りを浸してゆく。


「ぅぐっ!!」

青年の顔が歪むとほぼ同時に、ライフがその指をヒールし始める。

魔力の針が内部へと潜り込み、神経を繋ぐ。

それから一旦外に飛び出すと、今度は表の皮膚を縫い合わせるように動く。

継ぎ目は薄くなってゆき、だんだと見えなくなった。


「これで、指は動くはずです」

ライトの魔法が玉のような汗を額に写してみせるが、その顔が晴れやかであることから、切断された指は問題なく接合できたのだろう。


「そうか、僕はコカトリスに石にされてしまったのか……」

 申し訳なさそうにしながらも状況の把握が早い彼は、今しがた施術の終わった指の感覚を試すように、握ったり開いたりしていたが、なにかに気付き辺りを見回す。


「リリー! 無事だったのか!」

その歓喜の声に、沈んでいたリリー・フロマージュの顔も瞬時に明るくなる。

 彼の方もすぐに仲間の安否を気にするあたり、人間性は良さそうだ。


 だからこそ、リリーの足元に転がる、もう一人の仲間の姿を捉えた時に、彼が感じた絶望感も大きな物だった筈だ。

 彼はなにも口に出さないまま、人目を気にせず大粒の涙を溢した。

「トリーシャ......」

彼の生還に一度は華やいだリリーの表情も、彼と同じく癒えぬ心の苦痛を我慢するかのようにしかめられてしまう。

 いたたまれない空気がその場を支配する。

 軽薄な慰めも、他人からの同情もここには入る隙がないように思えるほどに。


 その場に居るものはただ押し黙って彼らのすすり泣きを聞くしか他に手だてはなかった。



「暗くなってしまいました、早く街へ戻りましょう」

そんな通夜のような空気を、打ち壊したのは、何も知らないギルド職員の言葉だった。

 ようやくコカトリスの診断をし終えたのだろう。

 離れていた矯太郎達に帰宅を促しに来たようだ。


当事者であるトリーシャのパーティーメンバー以外は、取り繕うように表情を戻して、何事もないように職員へと接することにしたようだ。

なので、元々空気の読めないケインハック等はその雰囲気に気づくことはなく。

むしろ、珍しいモンスターの調査でテンションが上がっている様子だ。


「コカトリスの死体は私たち職員が解体し、必要な部位を選んで利用します。買い取り価格は後の査定になりますが、それなりの値になりそうですよ」

等と明るい声で話しかけてくる。


 聞くところによると、モンスターの死体は金銭取引できるようだが、大抵は剣士に切られ、魔法使いに燃やされ、利用できる部分は殆ど無いこともあるらしい。

 ところが今回は肉弾戦での討伐だったため、外傷も殆ど無くきれいな状態で、職員も驚いたのだとか。


「どうやったらあんなに一方的に倒せるんですか?」

 もう一人の職員であるラングは矯太郎には慣れたのか、普通に問いかけている。

一見しては分からないがこちらもテンションが上がっているのかもしれない。

とはいえ、まさかロボットだからですと言うわけにもいかず、ハハハと笑って誤魔化す矯太郎だった。



 帰り支度をし始めると、先ほどまで悲しみに暮れていた二人も立ち上がる。


「大丈夫なのか?」

 矯太郎から放たれた言葉はぶっきらぼうではあったが、二人は揃って頭を縦に振る。

 きっと矯太郎達の世界とは生死観が違うのだろう。

 彼らの目の回りも鼻の頭も真っ赤になっている所をみると、まったく平気だとは言えないのだろうが。

 それでもまだ20代そこそこの年齢で友人を亡くし、すぐに立ち上がれる彼らを凄いと思うのだ。


 しかしこんな状態の二人に対しても、矯太郎は質問をしなければならない。

「どうして君たちはこんなところに来たんだ?」


 その質問に二人は顔を見合わせると、順を追って話してくれるようだ。

 ただしその顔は未だ青ざめたままだったが。

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