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43呪いの形

 ライフとリリーは少し落ち着いたところでメイに促され、セノーテ湖の水で薬液を落としに向かった。

 もちろん紳士である矯太郎はそれを覗きに行こうとは思わないが、メイはきっちり視線までも警戒している様子だ。

 だがむしろ彼が興味があるのは石化していた人間の欠片だ。

 地面にしゃがみ込むと、先ほどまでリリー・フロマージュが転がっていた辺りの岩を物色する。


石像の状態で彼女を運ぼうとした際、その重さはまさに石だった。

それは表面だけ硬化しているというものではなく、中までちゃんと石の重さだったはずだ。


「どういう仕組みで石になったり、人間に戻るのだろうか?」

 魔法がある世界なのだから、矯太郎の知っている一般常識など通用しないのは分かっているが、それでも探求心は涌き出てくるものだ。


「私も気になったので、錬金術師の方に聞いたのですが、呪いのようなものという曖昧なお返事しかいただけませんでした」

水浴びをしているであろう少女と矯太郎との間に壁になるように控えるメイは、創造主の思考の手伝いをするために情報を開示した。

しかし、矯太郎は腕を組み唸り始めてしまうのだった。


「呪いというのはまた便利な言葉だな」

 魔法と同じくらい得体が知れないのに、その効果は何でもありと来てる。


 しかし矯太郎はそんな意味不明な力にも法則や、限界というものがあると考えていた。

「何故」を理解できずとも「どんなもの」かくらいは知っておきたいと、頭を回転させる。


 例えば丑の刻参りを一つの例としよう。

 何故、藁人形に釘を打ち付けると相手が苦しむのかは全く理解できないが。

 儀式を行う場所は神社と言われていて、寺でもいいというのは聞いたことない。

 スタイルは白装束に御徳を逆さまにして頭にかぶるというのもある。

 用意するべきは相手の髪の毛や爪を入れた藁人形と五寸釘、トンカチも忘れずに持っていかねばならない。

時間はその名の通り丑の刻、つまり深夜1時~3時頃に限定されている。

 そして、他人に行為を見られると呪いは自分に降りかかるともいう。


 呪いそのものは理解できない現象だが、かなり限定的な状況でしか発動しない呪いだということが分かる。

 実際に正しく効果が表れるように行うのは至難の業だろう。


約束の一つでも違えれば、呪いは発動しないのだ。


 そのうえよく矯太郎がお世話になっていた警察からすると、不法侵入に器物破損の現行犯だし、その格好で歩いているだけで職務質問されるのも請け合いだ。

 あれは自分にどんなに非が無くても結構ビビってしまうものだ。



 矯太郎が頭のなかであれこれ考えているうちに、女の子二人組は仲良く戻ってきていた。


「すみません、お時間取らせてしまって」

そう言ってライフは矯太郎に頭を下げる。

セノーテの大穴から見える空は赤くなりつつあるし、そこから差し込む光ももはや殆ど無くなっていた。


「リリー、足元を照らせる魔法あったよね」

頭を上げたライフは、隣に居る茶色い髪の女の子に気兼ねなく話しかける。

その様子に彼女達の関係が近しいものだという印象を抱かせた。


「ええ、ライトね」

そう言うと何やら呪文をブツブツと唱えたと思えば、辺りが照らされた。

光源がある訳では無いのに、ある一定の範囲が昼間のように視界明瞭になるという不思議な現象である。


矯太郎ももちろん学園の図書館で、この呪文に関しては知っていたし、その文面もある暗記してはいる。

とはいえ、わりかし簡単な呪文であるにも関わらず、矯太郎には魔法を使うことが出来なかった。


明かりに照らされて、改めて二人を見る。

今しがた湖から上がってきた筈なのに、髪や服が濡れていないのも何かの魔法を行使したのであろう。

そう考えるとこのリリー・フロマージュという魔法使いは中々の腕前らしい。


 しかし、当のリリーのは何やら浮かない顔をしている。


「どうかしたのか?」

 矯太郎は石化で剥がれた石の欠片をバッグに入れ、立ち上がりながら聞いてみた。

しかし、リリーの口は真一文字に閉じられていて、肩に力が入っているのがわかった。

それを優しく支えるように手を回したライフが、彼女の代わりに口を開く。


「リリーちゃんは魔法専攻科を卒業して、パーティを組んだらしいんだけど、そのメンバーでここに来てコカトリスに全滅させられたんだって」


 何やら悲しげな含みのあるライフの説明に合点がいった矯太郎は辺りを見回す。

 新しいものから古いもの、あちらこちらに石像が横たわっているようだが。

完品であるものを探す方が難しいのではないかと思わせる。

「そのお仲間がこの辺に転がっているわけだな?」

多少空気を読めないセリフだったかもしれないが、どう言い繕ってもあまり好ましい状況ではないという事はこの場の人間なら分かるはずだ。


「お願い! 私の仲間を探して!」

 回りの者に状況が理解できたことを悟ったリリーが顔をあげ懇願する。


見渡す限り立っている石像は無いようだ。

倒れたとすれば打ちどころが悪ければ無傷とはいかないだろう。


さらに、この中で一番最年長である矯太郎は、この石像郡の謎について、ひとつの見解を見出していた為に、残りのメンバーが無事である可能性の低さを理解していた。


それでも、目の前で必死になっている人間に対して、自分もできる限りの事をしてあげたいと、矯太郎は力強く頷いた。


「わたくしも構いません。リリー様、最後に彼らを見た場所や特徴などはございますか?」

 冷静にメイが聞くと、一つ深呼吸をしてメンバーの情報を教えてくれた。


「三人のうち二人は同級生の戦士科の男女で、もう一人はメンバー募集掲示板で臨時募集したシーフだったの」


 同級生の名前を聞くと、メイのハードに該当の人物が思い当たったらしい。

「彼らの顔のデータを眼鏡に転送します」

 便利なことに、矯太郎の発明を通して情報が共有される。

シーフだけは臨時ということもあって、メイのデーターに無いのは仕方の無いことだろう。


「とりあえずこの二人から探すとするか」

 矯太郎達は手分けをして探索を始めた。

 やはり一番可能性が高いのは、もともとリリーが倒れていた辺りだろうと当たりをつけるのだった。


 石像の数はかなり多い。

 コカトリスがいつ頃から根城にしていたかは分からないが、やはりその殆どが倒れたり、落石の被害にあって崩壊していた。

 リリーの体が無傷で立っていたのは奇跡に近いのではないだろうか?

 皆、多少の嫌な予感を感じながらも、捜索に勤しんだ。

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