41調査
時刻は既に夕方に差し掛かる頃。
まだ空は赤くなってはいないが、昼に来た時と比べて太陽の位置はだいぶ下がっている。
真上から日光が降り注ぐうちは、明るく感じる森の中も太陽の角度が下がると、鬱蒼と茂る木々に遮られ、かなり薄暗く感じるものだ。
コカトリスの洞窟は未だその主人がもう居ないことを理解していないかのように、来るものを拒む陰鬱さを保っていた。
ラングがブルっと身震いをする。
もう一人の職員......ケインハックも冷や汗を飲み込むかのようにごくりと喉を鳴らしている。
彼らはこの先のコカトリスが死んでいると聞かされてもまだ、実際に見ていないからか、恐怖で何度もその足は止ってしまう。
それでも矯太郎達が気負いなくどんどん進むせいか、はたまた彼らの職業意識の賜物なのか、勇気を振り絞って止まった足を前に進ませるのだった。
それほどの恐怖の対象であった事など、矯太郎達は知る由もなく倒してしまったのだが。
「メイさんは俺の後ろに付いて来てください」
等と当初は格好つけてみたケインハックではあったが、結局のところ臆せずズンズンと進むメイの後を追っている形になり、なんともみっともない状態ではある。
ああいう中身が伴わない人間は、やはりすぐにボロが出るものだなぁとしみじみ思う矯太郎。
最初は言い寄られて辟易していたライフも、彼が静かになったことでこれ幸いと、空気よりも存在を認識していないように振舞っている。
そんな一行は塩の岩を抜けながら、大きく開けた空洞へと足を踏み入れた。
そこは最初に踏み込んだ時と同じように、荘厳かつ優麗な雰囲気を持って彼等を迎えてくれていた。
直接の光源が天井の大穴から降り注ぐことはなかったが、水面は静かに湛えられ、地下水として流れる水の音が静寂の中で癒しを与えてくれるようだ。
奥にでかい鶏の死体が転がっていなければもっと完璧だっただろうが。
ケインハックとラングはほとんど同時に、ごくりと唾を飲み込んだ。
「あれが、コカトリス......」
情報としての生物の特徴は知っていても、本体を拝むことは今まで無かったはずだ。
そんな生き物への畏怖と、自分の職業意識とがせめぎあっているのだろう。
ここでもしばらく足を進める事は出来なかったようだが、遠目とはいえ5分も観察すればそれが全く動かない事を確認できたのだろう。
ようやくその足は調査のために少しづつ歩を進めて行くのだった。
彼らはコカトリスが本当に死んでいるのかを確かめるために、脈を取ったり、死後硬直を測るために羽の部分を引っ張ったりしているようだ。
完全にそれが終われば、巻尺のようなもので長さを測ったり、死因等を探したりと忙しくしている。
その姿にはもう恐れはなく、むしろ普段は見ることの無い生物に触れる好奇心の様なもので突き動かされているように見える。
それは、女性にしか興味が無いのではないかと疑う程のケインハックも同じ。
腐ってもモンスター管理ギルドの職員なのだと感じさせるものだった。
今回の派遣は、モンスターの生死の確認や、後に報奨金などを査定するための簡単な下調べといったところだろう。
明日にでも何人かの人員を派遣し、解体や解剖を経て、この生き物の生体などを観察する為に本格的な調査が始まるはずだ。
胃を開けば、どんな食事をしているのかが分かる。
それが植物であれば群生地から行動範囲が分かるかもしれない。
体に傷があれば、縄張り争いを他のモンスターとしているかもしれない。
繁殖しているのか、しているとしたら範囲内に未だ発見されていない番のメスがいるかもしれない。
彼らから知れることは数多あるはずだ。
新たな驚異を事前に把握できる事は近隣の生活に大きな安心感を与えるに違いない。
コカトリスを知ることで、共存することも、退治することも出来るようになるだろう。
人々の暮らしを影で支える大事な職業といえる。
その為にも彼らは危険な場所に赴くのだ。




