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40挑む理由

 そうなると気にかかることも出てくる。


「コカトリスというのは、そこまでして倒す価値のある生き物なのか?」

 矯太郎は腕を組みながら思案に暮れてみるが、どう考えてもリスクとリターンが釣り合っていないように思えるのだ。

 誘蛾灯(ゆうがとう)の様に腕に覚えのあるものを誘い込み、帰ることなく石にしているというのに、それでもまだその火に飛び込んで行くものが後を絶たないとなると、それなりの見返りあってこそなのだろうが。

 結局の所、異世界人である矯太郎には、モンスターの名前と見た目は本で理解していても、それがどういった物なのか、完全には理解できないのだった。

 ただし、現地で生きてそれを管理している者たちならば、その答えは持っているに違いないと、ラングへと視線を向ける。


 普段無口なラングは、先程よりも生き生きとした表情で舌を回す。

「コカトリスは自ら人を襲わないため人間と共生する事が出来ますが、その石化の魔眼や、石化のブレスを入手しようと、幾人かの冒険者が挑んだことで天災(disaster)級まで危険度が引き上げられました。そうすると今度は、天災(disaster)級モンスターを狩ったという名声欲しさに他の冒険者が現れる負の連鎖が起こってるんですよ」


「そうか……実質警告(warning)級の強さで狩れる天災(disaster)ということか」

「そういう事ですね」


 確かに有用な素材が取れると言うなら、それを狙うハンターもいるかもしれない。

 しかし、それが生半可な強さでは敵う訳が無い。

 市場に象牙が高く売られて居るからと、銃も持たない村人が素手で戦いに行くようなものだろう。

 背後から奇襲をかければとか、遠距離から魔法を打てばとか考えたのかもしれないが、そんな誰もが思いつく方法で倒せるのなら、きっとその対処法は知れ渡って居るだろうし、ここまで頭を悩ませることは無いはずだが。 


「だとしてもだ、その名声がどれだけ役に立つ物なのだ?」

 矯太郎の疑問に少し目を大きくさせたラングだったが、すぐにその理由を口にした。


「だってですよ? 想像してみてください。天災級を倒したってのは、竜巻や津波を止めれる人間と同じ扱いですからね──その瞬間から英雄視されること請け合いでしょう?」

 当然、というように語られるこの世界の仕組み。

 言葉通り考えれば、天災(disaster)級なのだから言っていることは間違っていない。

 あまりにメイが呆気なく討伐してしまったことで、実感がわかない部分があったという訳だ。

「まぁそりゃぁそうか」

 少し納得がいかないといった雰囲気で、矯太郎は腕組みを崩すことは無かったが。

「それに、国から勲章と報奨金である大金貨100枚を受け取ることが出来るんですよ」

 という情報で矯太郎の眉間のシワが緩んだ。

 彼なりにリスクとリターンに折り合いが付いたのだろう。

 やはり形の無いものではなく、実物があってこその見返りというものだ。

 実際、日本円で言うところの一千万円と、この世界の就職に有利になる肩書き等があれば、矯太郎でも象に素手で挑みかかるかもしれない。

 もちろん何らかの策を用意してだろうが。


 しかし、その金額に対して一番反応が大きかったのは彼ではなかった。

「大金貨100枚!?」

 突然会話に割り込んできたライフの目が輝いている。

 いや、むしろ古い言い方で言うところの目が¥マークになっている。

 彼女に対して守銭奴だとか金の奴隷のようなイメージは無かったのだが、この食いつきように若干他のメンバーは驚いてしまった。


 ライフ・グリンベルは幼少の頃は何不自由無い生活を送っていた。

 国家資格である治癒師の資格を持つ家庭で生まれたのだから当然だろうが。

 一家の稼ぎ頭である母が亡くなってからは、父の稼ぎでなんとか切り盛りする生活が2年は続いたのだ。

 お金に不自由した経験が、彼女をそうさせたのかと、矯太郎などはそう感じてしまったが。


 次の彼女の言葉でその行動の理由が理解できたのだった。


「それだけのお金があれば治療院を建て直せますね!」


 その目には自分の生活や贅沢が映っているのではなく、未来への希望が輝いていた。

 ライフの目的だった治療院はもう無くなってしまった。

 あの衝撃からまだ一週間と経っていないが、それを復建させるのは現在の彼女の悲願である事は間違いないだろう。

 目途が立つと分かった以上興奮してしまうのも頷ける。

 浅はかな理由であるだろうと勝手に考えてしまったことを、矯太郎は密かに内心で恥じざるを得ない。


 とはいえ、目標を目の前にしたライフは少し前のめり気味である。

「いつ貰えるんですかそれは?」

 詰め寄るライフに対し、後ずさる根暗ギルド職員のラング。

 彼は自分の間合いで自分の得意分野の話をする以外では、こんな感じなんだろうなと少し不憫に思う。

 ましてや見目麗しい美少女に接近される機会などこれまであっただろうか?

 その挙動不審っぷりに、簡単に答えを想像できそうなものだが。


 あまりに狼狽(うろた)えて、答えることも出来そうにないので、矯太郎はライフの肩に軽く手を乗せて距離を取らせるのだった。

「落ち着くんだライフ殿。お金の話はこの調査が終わってからになるだろう。ここで詰めるよりもさっさと仕事を終わらせて頂いて、報告書を作ってもらった方が賢明だと思うぞ」


「そ、それもそうですね」

 状況が飲み込めたのか、ライフは大人しく引いてくれた。

 それでもその瞳には治療院再建への熱き希望が見て取れる。

 矯太郎もその目標に大きく貢献をしたいと考えてはいるものの、簡単に叶う目標ではない事も理解していた。


 この報奨金はきっと4人で折半(せっぱん)になるだろう。

 それに、高価だと言われる石化回復ポーションの材料も購入したはずだ。

 これはライフの友人に使用するのだから、ライフが工面する形になるのではないだろうか?

 報奨金の額は小さいものではないが、実際に手に入る金額はどの程度になるかは分からない。

 彼女の進む道は一朝一夕で到達できるものではないだろう。


 だがこれはこの報奨金だけの計算であることだし、矯太郎もライフの夢に尽力することは違いないだろう。

 メイはもちろんの事だし、今回貸しを作っているリリーだって、あまり考えずに応援してくれるに違いいない。

 ライフ・グリンベルは良き仲間を得ているのだ、これは目の前に置かれた大金貨100枚よりも彼女にとっての価値は大きい。

 母が他界し、治癒師を目指して一人で勉強していた日々は、闇の中に光を探す旅のようなものだっただろうが。

 今はきっと、光の中で夢を語る仲間と共に歩いているはずだ。


 ライフの燃える翡翠色の瞳と、その口元にたたえられている自然な笑みに、矯太郎はそう感じるのだった。

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