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相変わらずなボクら

「わかったよ……礼をしたい」

 矯太郎はメイの性格から、彼女が何かを言い出したら変更しない事を熟知している。

 シブシブといった雰囲気は隠せないが、肯定の言葉でそれに応じることにした。


 無理やりその言葉を引き出したメイは満面の笑みを、ヒールしてくれたエルフに向けるのだった。


「ご主人様もこう言っておられます、これも何かの縁ですから」

「いえいえ、そんな受け取れませんよ」

 エルフはそんなやり取りに、水面下の攻防があった事などつゆ知らず。

 それでも奥ゆかしく断ってくる。


「それではこうしましょう、私達はこの街に到着したばかり。どこに何があるのか把握しておりません……この町の案内をしていただけませんか? お礼はその正当な報酬としてお渡しさせていただくというのはいかがでしょう?」

 実際に到着……いや着地して数分しか経ってはいない訳だ。

 覗き穴から観察するだけでは多くの情報を得ることは出来ていない。

 矯太郎達はまさに未知の世界に放り出された状態なのだから。

 

「はぁ、それであれば構いませんが」

 こちらも少し抵抗を感じはしたが、エルフの娘は人が良いのだろう。

 困っているのが伝わったのか、そういう者を放って置けない人物なのだと推測できた。

「どうもありがとうございます。もしあなた様が良ければ……そういえば名乗ってもおりませんでした。これは失礼しました」


 そういうとメイは改めて頭を下げると、自己紹介を始める。

「後ろにおりますのが、わたくしのご主人様に当たります、四目(よつめ)博士、そして給仕をやっておりますメイ・ド・フレーズと申します」

 うやうやしく頭を下げて、敵意がない事や常識的であることをアピールしているのだろうか。

 実際にその姿を見ると、かなり洗練されていて、高度な教育や作法が身についているのだろうと錯覚させられてしまう。


「これはご丁寧にどうも、私はライフ・グリンベル、治癒師の見習いをやっています」

 ライフと名乗ったエルフもやはり釣られて頭を下げた。

 名乗り終わって上げた顔をまじまじと見ると、年齢はまだ10代のようで、整った顔立ちに人の良さそうなタレ目が印象的な美少女だ。


 眼鏡を掛けたい! 矯太郎はそう強く思った。

 そう、彼の本願は眼鏡美女を愛でる事。

 あわよくば眼鏡の似合う女性とお付き合いが出来るのであれば……


 矯太郎の願望が強すぎたのか、彼らが長く一緒に居るからなのか、思考がメイに伝わったらしく、顎に二発目の踵が寸止めされて、矯太郎はたらりと冷や汗をかいた。

 誤解だと言わんばかりにライフから目を逸らす矯太郎だったが。

 そこでようやくあたりを見回すと、ここは彼があのワームホールから覗いていた町並みそのものだった。


 目抜通りに露天が並び、活気がある。

 行き交う人の顔も幸せに溢れた街のど真ん中だ。

 それは、この場所に文明があり幸せに彼らが生きていることが(うかが)えるものだ。

 ワームホールから眺めただけでも楽しめたが、やはり間近に人間以外の種族を観察したり、見た事のない物が売っている店などを見てしまうと、矯太郎の知的好奇心がグツグツと煮え始めるのがわかった。


 矯太郎がキョロキョロしているうちに二人の間で取り決めがなされたらしい。

 創作者など完全に蚊屋の外ではあるが、メイのやることに間違いはないだろうという信用も彼にはあったからだ。


「では半時後、そこに向かわせていただきます」

「はい、私は用事を済ませてきますね」


 そういって美少女であるライフは人混みの中へ消えていった。


 そこでようやくメイが矯太郎の方へ振り返ったので、彼は並べれるだけの不平不満をぶつけてやろうとしたのだが。

 その表情を見て顔色が変わる。


「──なんだ、その顔は?」

「申し訳ありませんご主人様、メイは本気で反省しております」

 目が合った瞬間、普段は鉄仮面のはずのメイの顔が今にも泣き出しそうな表情だったからだろう。

 矯太郎は二の句を継ぐことが出来ずに、それを見つめていた。


「ご主人様の特性を知っておきながら、後先を考えずに真に受けてしまうような冗談を言ってしまったことを、今では心から後悔しております」


 矯太郎はこのロボットにもそういう気持ちがあったのかと驚く反面、こうして自分を追いかけてこの世界へ来てくれた事を少し嬉しく感じた。

 あの穴は一方通行だ、簡単に戻ることは出来ないだろう。

 それを知っても尚、自分からそれを通る決断をしてくれたのだから。

 

「その、なんだ……追いかけてくれてありがとう」

 礼の言葉に頭を横に振るメイ。


「心配で心配で……気付いたら飛び込んでしまっていました」


 矯太郎にとってメイは残されたたった一人の家族。

 彼が彼女を大切に思うように、彼女もまたロボットの身でありながら矯太郎を心配してくれた、そして自分の身を投じてこの場所にやってきてくれたのか、と。

 二人して今にも涙を流しそうな表情で見つめあう、そこには家族の愛という尊いものが見えるような気さえしていた。


「現地の方がご主人様に迷惑を掛けられないか、心配で心配で……」


 メイの言葉に、先ほどまでの感動が吹き飛び、真顔になる矯太郎。

「おいおい一瞬で冷めたわ。異世界でも通常運行だなお前は……ちょっとだけ感動した俺の心を返してくれ」

「すみません、心を返却することはできません」


 また鉄仮面に戻ったメイ。

 わめき散らす矯太郎。


 異世界に来ても変わらない二人がそこにいた。

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― 新着の感想 ―
メイは追っかけて来たんですね。 やはり素晴らしい! 是非にそのおみ足で……ぐはぁ、これはこれでご褒美……ぐはぁ! と、冗談はさておき、ちょっとほっこりしましたよ!
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