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39散歩

「これで良し、っと」

 一人で突っ走る癖のあるシャーリー対策を考え付いた矯太郎は、早速それを実行に移していた。


「ヨツメさん、流石にそれは酷くありませんか?」

「鬼畜の所業ですね博士」

 しかしライフやメイには不評の様子。

 青と緑の瞳に揃ってジト目を向けられている。

 

「何でだ? シャーリーも喜んでいるぞ」

 視線を向けた先では、シャーリーが機嫌よく首元のチョーカーを弄っている。


 といっても、時間の無い状態での間に合わせである。

 矯太郎は自分のベルトを短く切って、小さく細い首に苦しくない程度で止めただけだ。

 黒い革のに銀色の金具が付いている良くあるデザインのベルト。

 チョーカーとしてのオシャレさは全く無いのにも関わらず、シャーリーのテンションは上がりまくっている。


「ししょおから何かを貰うたびにパワーアップする気がします!」

 確かに眼鏡を掛けた時には、彼女自身驚くほどの進化を遂げたと思うが、今回のチョーカーはそういう類のものではない。

 だがまぁ喜んでいるので矯太郎は笑顔で頷いておく。

「良く似合っているぞシャーリー、立派な錬金術師に見える」

「当然よ! なんてったってハイパー錬金術師様ですもの」


 両手を腰に据えて、これでもかと平たい胸を張って見せる。

 彼女の自信は今日もとどまる事を知らない。


 通常とハイパーの違いは分からないが、そこは問題ではなく。

 そして不評なのもこのチョーカーのデザインの問題ではない。


「さぁ、早速コカトリスの洞窟へ行こうか」

 矯太郎はそう促しながら彼女のチョーカーの後ろに金具を引っ掛けた。

 そんな事などお構いなしに、シャーリーは早速歩き出す。


 引っ掛けられた金具の先には 紐が伸びており、一定の距離になるとピンと張った。


「これじゃぁまるで犬の散歩じゃないですか」

「鬼畜が人間様を家畜扱いして楽しいですか?」

 さんざんな言われようだが。


「これしか思いつかなかったのだから仕方がないだろう!」

 と声を荒らげる矯太郎も、本心はどうかなとは思っているのだ。


 最初はライフが手を繋ぐ事にしたのだが、不思議な事にいつの間にか変な場所に向かって歩いている。

 思い出すと、看板の前の待ち合わせの場所でも、ついさっきまで矯太郎の腕の中にいたはずなのにという状態だった。

 きっと考えて行動しないぶん、こちらの意識をすり抜けてしまうのだろう。


 というわけで物理的に逃げれなくして置くこと。

 直接確保していないので、意識から外れた瞬間でも引っ張り返せることとしてこの対応を取らざるを得なかったのだ。


「とりあえず帰ったらもっと良いものを作ってやるから、今はこれで我慢しろっ!」

 当の本人は嫌がっていないのだから別にいいとは思うが、この絵面に苦笑を禁じ得ないのも確かだ。

 その上、矯太郎も発明家としてのこの道具の出来に不満を持っている点も大きいのだろう。


 とはいえ、首が苦しいのもお構いなしにどんどんと前に進もうとするシャーリーを見ていると、かなり犬っぽいというか……だんだん首輪が似合っているように感じるのは不思議だ。



「そういえば、コカトリスはずっとあの場所をねぐらにしていたのか?」

 取り敢えず話題を変えたいのだろう。

 矯太郎は少し気になっていたことを、同行するギルド職員に尋ねることにした。

 あの鳥は【災害級】モンスターなのだから、近隣にある村などは被害を被る可能性も捨てきれない。

 それにしては洞窟に近い村は避難をするでもなく、普通に営んでいた事に疑問を持ったからだ。


 すぐに普段は寡黙な職員が、早口で説明を始めた。

「コカトリスは本来草食動物です。穀物を育てている畑などに出現した際には村の方が犠牲になる事もありましたが、基本的に好んで人間を襲うという事はしないんです」


 急な滑舌に少し驚きはしたものの、オタク気質な部分があるのかもしれない。

 矯太郎もそんな彼に僅かにシンパシーを感じたのか、気遣いなどではなく、興味を持って観察を始める。

 彼の名前はラングというらしい。

 よく見ると彼らがギルド職員であることを示す腕章の下に、名前が記載してあった。

 興味がない間はそれすら目に入らないのは、矯太郎の視野の狭さを如実に表している。

 年齢は20代前半、身体は細く鍛えられていない。

 本人は真っ直ぐ歩いているつもりだろうが、歩幅にはブレがあり、普段から運動をしている雰囲気ではない。

 もちろん武術の心得や軍隊のような安定感は無いようだ。

 手にはペンダコがあり、裾から伸びる白いシャツにインクが付いているところを見ると、典型的な文官タイプだろう。 


 そんな矯太郎の人間観察などよそに、ラングは話を続けた。

「ただし、よく勉強をせずにコカトリスを倒そうとする人間は後を絶たないのが現状で、腕に覚えのある冒険者が返り討ちに合うために、危険度ランクが上がっている状況です」


 そういえばあのモンスター管理ギルドの受付の女性はそういう事を叫んでいた気がする。

 あの建物で途方に暮れていた幾人かの人物も、きっと地位や名誉を求めて挑み、返り討ちにあってしまったものの末路だったのかもしれない。

 まぁ矯太郎達に至っては目的がコカトリス退治目的であの洞窟へ入った訳ではなかったが、何も考えず迷い込んだものも、彼ら以外にもあったかもしれない。

 今回はメイとの相性が良かっただけで、生身の人間が相対してすんなり帰ってくる事なんてまず無いのだろうから。

 運が良かったというわけだ。

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