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38手のひら返し

 目線を彷徨わせた矯太郎の視界の先に、メイのフリフリのエプロンが映りこんだ事で、矯太郎は意識そっちに向かわせるために、わざと大きく手を上げて呼んだ。


 するとメイの広がったスカートの後ろから、ひょっこり顔を出したシャーリーが、満面の笑みでこっちへと走ってくる。

「ししょぉーう!」

 そのまま飛びつくように矯太郎の胸の中にダイブするのを抱き抱えるようにキャッチ、そのままくるくるとコマのように回転する。

「あのね、錬金術の工房のおじさん達が、若いのに石化解除ポーション作れるなんて凄いって褒めてくれたの!」

 きっと見た目で若いと判断されたのだろうが、シャーリーも立派な21歳のレディーであることはここで明言しておく。

 しかし、満面の笑みで報告をしている姿は、まるでこのふたりが親子のように見えるだろうか。

 先程の矯太郎の呼び名が師匠であったことや、その受け止めた本人が他人から見ると気持ち悪いくらいにニヤニヤしていることを除けばだが。


 そんな面妖メリーゴーランドをものともせずにマイペースで歩を進めたメイが、合流と共に口を開く。

「ライフ様、ご主人様が迷惑をお掛けしませんでしたか?」

「あっ、いえ。特に迷惑などは……」

 ライフはそんなことはないと頭を横に振りながら答えた。

 むしろ、道中ずっとキザ男に話しかけられていた事で精神がすり減ってしないそうな所を、仕事の話で矯太郎が散らしてくれて感謝する程だ。

 その反応にホッとしたのか、メイは視線をギルド職員に向ける。

「こちらの方々は......モンスター管理ギルドの方でしょうか?」


 その美しいが無表情な顔が向けられると二つの違う反応が返ってきていた。

 無口な職員はその無表情さに何を感じたのか、怖がるようにさっと目を逸らす。

 もう一人の軽薄な男はその顔が気に入ったのだろう、ヒュゥと口笛を吹いた。

「初めまして美しいお姉さん、私はモンスター管理ギルドのアンドリュー・ケインハックと申します」

 キザ男は自己紹介と共にしゃがむとメイの手を取り、そこに口づけをしようとしたのだろう。

 しかし、メイの手はブロンズ像の様にその場から一切動くことなく、口を尖らせたアンドリューが必死にそれを引っ張るという、なんともおまぬけな図だけが展開された。

 だがこのケインハック、そんな状態に対してもめげないメンタルだけは褒めるに値するかもしれない。

 直ぐに立ち上がると、前髪を軽くかきあげながら、何事も無かったかのように会話を進めるのだ。

「私としたことが……お美しい貴女への最大限の敬意をと思いましたが、恥ずかしがる貴女の気持ちを理解できておらず、大変申し訳ありませんでした」

 さっきのキス顔のアホ面下げといてよくそういう言葉が言えるもんだなと、くるくる回り終えた矯太郎は苦笑を禁じ得ない。

 まぁ、回っていた際の矯太郎の方も大概アホ面ではあったのだが、得てして自分の事は見えていないものだ。


「最低です」

 そのやり取りを見ながら本人に聞こえないようにぼそっと漏らしたのは、まさかのライフだった。

「なんだライフ、ああいうヤツが好みだったのか?」

 当のアンドリューは既にメイしか視界に入っていないらしく、こちらの会話は聞こえていない様子だ。


「軽薄な人は好みじゃないです。ただ、私に気があるように接してたのに、美人のメイさんを見るところっと態度を変えて、明確に差を付けられた気がして気分が悪いです!」

 腕を組んで頬を膨らませているライフ・グリンベル。

 そういえばこんな顔を見たのは初めてだと矯太郎は考える。

 しっかりしているように見えても、こういうちょっとした事に感情的になるのかと、苦笑しながらライフの頭を撫でてあげるのだった。


「メイが彼の趣味に合ったってだけだろう、ライフが劣っている訳じゃない」

 その対応に今一つ納得がいっていないのか、頭に置かれた手の奥から矯太郎を見上げる。

「どーせ、メイさんに魅力で勝てないのは分かってるんですけどね」

 その不貞腐れた顔が矯太郎の心を射抜いたのか、つい口走ってしまう。

「お、俺はメイなんかより、ライフ殿の方がずっと魅力的だと思ってるぞ」


 その言葉を聞いたライフは一瞬固まってしまった。

 そして意味を理解するにつれどんどん顔を赤くして、ついには頬を両手で押さえて顔をそむけてしまう。

 その反応も可愛くて、矯太郎は悶え苦しむように身体をクネらせながらも、言った言葉を自分では疑う余地もない様子。


 実際、メイはロボットである。

 成形された美しさに、男性を魅了するプログラムを組んだだけの物体だ。

 しかもそれを作ったのは矯太郎なのだから、仮にメイに好かれたとしても、自分に自分が求愛してるようなものだろう。

 あまつさえ眼鏡も掛けていないし、口も悪いし、眼鏡も掛けていないのだ。


 そっぽを向いているライフを眺めながらニヤニヤしていると。

 そのライフが何かに気付いたらしい。

 しきりに辺りをキョロキョロと見回して言った。


「ところでシャーリーさんは?」

 言われて見渡すが、さっきまで矯太郎の腕の中で回っていたはずなのに見当たらない。

「マズい、迷子か!」

「近くにシャーリー様の生体反応はありません、油断しておりました」

「薬を持って一人で洞窟に行っちゃったんじゃ?」


 慌てる俺達に蚊の鳴くような声が掛けられる。

「......あっ、あの」

 無口な職員が、おずおずと指をさす方向に一同目を凝らすと。

 大きく腕を振って意気揚々と歩き去るシャーリーの背中が小さく見えた。


「シャーリー! そっちは正反対だぞ!」

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