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37ギルド職員

 モンスターギルドの職員が2人、矯太郎達の後をついて来ている。


 一人は前髪を目の高さまで伸ばした、いかにも人付き合いが苦手そうな少年風の男。

 もう一人は正反対に軽薄そうな話し方で、ベラベラとずっと何かを喋っている。

「あのコカトリスを倒すなんて凄いんですね!強い人って尊敬しますよオレ」

 しかしその視線は矯太郎へ向くことは一度もなかった。

「ええ、まぁ......」

 ライフ自身もしつこく話しかけられ続けて困惑しているのか、曖昧に返事を返すだけでちゃんとした会話にはなっていないようだ。

 矯太郎は不機嫌そうにはしているが、陽キャ耐性を持っていないために、間に割り込む事に躊躇している様子だ。

 その顔を、前髪の隙間から仰ぎ見るのは、もう一人の職員。

 うってかわって何も喋りはしないのだが、矯太郎が視線を返すと、慌てたように下を向いてしまった。


「おっとすまない、怖い顔をしていたかな」

 年上の貫禄だろうか、落ち着いた雰囲気で話しかけると、蚊の鳴くような声で返事が返ってきた。

「......いえ、そういう訳では......」

 あまり自分から話をするタイプではないのだろうと矯太郎は見抜いたが、それでも黙っていれば背後の軽薄男の会話に気分を害される為か、少しでも気を紛らわせたいと、積極的に話しかけることにしたようだ。

「今回のコカトリスが災害級モンスターだと言ってたのを聞いたが、他にはどんな区分があるのかな?」

 きっとこの無口な職員は自分の事などを聞かれても困惑するだろうと考えた矯太郎は、彼の仕事に関する質問をしたようだ。

 このくらい通常時から気が効けば人間関係もうまく構成できそうなものだが。

 ことメガネ娘が絡むとポンコツになってしまうのが玉に瑕だ。


 気を使われている事には気づかなかったのか、無口な役員は普通に質問の答えとして言葉を発し始めた。


「そうですね......危険度によって4つの区分があります──」


 そのモンスターが起こす被害や、脅威度によって分けられており

注意(caution)

警告(warning)

災害(disaster)

破滅(destroy)

 の四つに分類されている。


 注意ランクは、一般市民が怪我をする程度のモンスターに当てられ、猪や鹿等の野生動物もこの類に入る。

 警告になると、死人が出る可能性の高いモンスター……例えば熊やサメのような生き物も入ってくるだろう。

 ちなみにここまでは矯太郎の居た世界でも可能性のある区分なのだが。


 災害級からモンスターは野生動物の被害ではなくなる。

 名前通り竜巻や津波と同等の犠牲の可能性を持った生き物。

 村一つを焼き払う炎を吐く亜龍などがそれにあたる。

 今回のコカトリスも、それが街中に飛来しようものならどれだけの被害が出るか、想像に難くない。

 だからこそ、その脅威が確実に排除されたかどうかを、ギルドが確認するのは当然の事だ。


「ううむ、やはり常識の類や実際の知見は、本を読むだけでは得られんものだな」

 矯太郎は苦笑しながらも、この世界の(ことわり)について知ることを楽しく感じていた。

 思い出しても体が震えそうなコカトリスの恐怖さえ、過ぎ去ってしまえばよい経験に思えてくるのも、彼のあくなき探求心のなせる業かもしれない。


「お役に立てたのなら何よりです」

 無口な役員も、やはり業務に関することであれば澱みなく話していた。

 蚊の鳴くような声も、ハエの羽ばたきくらいには聞こえるようになった所を見ると、少しは気を緩めてくれたのかもしれない。


 それからも矯太郎はいくつかの質問をして、気を紛らわせながら、メイ達との待ち合わせ場所へと移動を済ませたのだった。



 街の中心にある例の看板の前に来たが、まだメイの姿は見えない。

 矯太郎の脳裏に、錬金術に失敗して工房を全焼させたりしていないかという不吉な不安が過ぎるが、頭を振って取り消す。

 錬金術の手順に関しては完璧に脳内に入ったはずなのだから、心配することは無いのだが。

 それでもあのトラブル体質なシャーリー・アルクウォールに掛かってしまっては、些細なことが大惨事になりかねないと思ってしまうのだ。


 と、苦笑で顔が引きつっている矯太郎の耳元で声がする。

『博士、もう到着されていますか?』

 眼鏡を通してメイから通信が入ったようだ。

『こちらはシャーリー様が石化回復ポーションを作成し終えた所ですが、合流なさいますか?』

 矯太郎はほっと胸を撫で下ろした。

「ああ、待ち合わせ場所へ来てくれ、今からもう一度あの洞窟へ行かねばならん」


 朝は早くから出発したので、最初にコカトリスの洞窟に着いたのは午前中だったが、今はもうゆっくりと日が傾き始めている。

 もう一度行くとなると帰りは暗くなってしまうだろう。

 せめてあの鬱蒼とした森からは日のあるうちに抜けておきたいものだと思案に暮れている。

 そんな矯太郎の横顔を、先程の無口な職員がギョッとした目で見ているのだ。

「おっと、また怖い顔をしていたか」

 気の弱そうな職員を脅すつもりはなかったと、バツが悪そうにする矯太郎だったが、蚊の鳴くような声はそこを気にしている様子ではない。

「いま、何か喋ってましたけど」

 先程のメイとの会話に興味を持っていたようだ。

「ああ、合流する仲間と話を、な。......独り言じゃないぞ?」

 思えばこの世界には携帯電話等が無いのだから、傍から見るとただの異常者にしか見えないのではないだろうか?

 ましてや異世界のテクノロジーだと言ってもどんな不都合があるかも分かったものではない。

 矯太郎は慌てて弁明をする。

「そういう、魔法だ、魔法!」

 いつも変人扱いをされているようにも思えるが、それとコレとは別なのだろう。


 しかし、その言葉に対しても納得がいっていない様子で、下を向いてひとりで何か呟いている。

「魔力の集積を感じなかった......」

 そんなものがあるのかと、実際に魔法のマの字も使えはしない矯太郎は冷や汗を垂らす。

 これは喋れば喋るだけボロが出るぞ。

 ということでこれ以上その話題を広げるのは止めておくことに決めたようだ

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