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13幼馴染み

 老婆をライフの居る治療院へと誘導したいが、その為にはまず店を片付けて閉めなければならない。

 最低限表に出しているものだけでも奥の店舗に下げる必要があるだろう。

「ヤーゲン坊や、ちょっとだけ待っててくれんかね、急いで片付けちまうからさ」

 そう言うと手慣れた手つきでいくつかの商品の入った籠を重ねてゆく。


 中に入っているものはどうやら木の葉の様なもので、重さは無さそうではあるが、それでも腰の悪い老婆にとっては重労働となるだろう。

 

 矯太郎やヤーゲンは何か手伝えることは無いかとソワソワし始めた所に、店の奥から慌てた声が聞こえてくる。


「おばぁちゃん、私がやるから! 無理しちゃダメだってば」

 声と共に現れたのは、赤毛に少し目の吊り上がった女性だった。

 小走りで駆け寄ると、店主から籠を奪い取り、一旦奥へと持ち去ってゆく。

 どうやら店の開け閉めは彼女が担当しているのだろう。

 それにも拘らず、老婆はその痛む腰で無理して作業をしているわけだ。

 それを心配するような顔で出てきたその女性は、店先にヤーゲンを見つけると目を吊り上げた。


 「あらっ、効きもしない薬を作ってるヤーゲンが何の用なの?」

 のっけから厳しい言葉をぶつけてくるが、既知の仲なのは言うまでもない。


「あれは根本治療薬ではないんだ、ただの痛み止めだよ」

 参ったという仕草で頭を掻きながら、ヤーゲンが答えるが、それをも鼻で笑い飛ばす赤毛。

 だが次の悪態をつく前に、ヤーゲンの隣に寄り添うようにメイが進み出てきた。


「ヤーゲン様……この方は?」

 更なる追従を仕掛けようとしたところに、質問を被せて流れを断ち切るのだった。

 おかげで赤毛は反論もせずにメイを品定めする時間に入ってしまった。

 その隙にヤーゲンはメイの方を向いて紹介をする。


「この人はベルガお婆ちゃんのお孫さんでシャンディさんだよ」

 シャンディと呼ばれた赤毛の女性は、その言葉に一瞬眉をピクリと動かしたが、努めて平静を装おうつもりでいるようだ。

 どうやら他人行儀に()()付けで呼ばれたのが気にくわなかったらしい。

 絶妙な関係性を保っているようで、下手に触ると何処にでもとげがありそうな雰囲気だ。


 ちょっとピリッとした空気を読んだのか、ベルガがそこに割り込んできた。 

「うちの孫とはこんな頃から一緒に遊んどったよ」

 腰痛持ちの老婆は、親指と人差し指でそら豆一個分くらいの隙間を作って見せる。


 いや小さすぎだろ。

 老婆ジョークというやつを、全員がスルーしたところで、シャンディの目線は改めてメイへと注がれた。


 もう一度上から下までを品定めする。

 メイはこの世界の縫製技術を超えたフリルのついたメイド服を着ているが、ソレと知らないものが見ればちょっとしたドレスに見えなくもない。

 前掛けがむしろ不思議な違和感を醸し出しているのだろう。


「──ヤーゲン()ぁ? 貴女、コイツとどういう関係なの?」

 コイツと言う際に、人差し指をヤーゲンに向けるシャンディの言葉には若干の怒気を感じ取れるようだった。

 攻撃の矛先が移った事にも動じずに、メイはにっこりとほほ笑んで、丁寧にお辞儀を返す。


「わたくし、訳あってヤーゲン様のお宅にお邪魔しております使用人でございます。軒を貸していただく代わりにヤーゲン様の身の回りのお世話をさせて頂いております」

「なっ!」

 それを聞いたシャンディは顔を真っ赤にして絶句。

 何を想像したのだろうか?


 ヤーゲンの年齢は聞いてはいないが16の娘がいるのであれば、30代半ばくらいだろうか。

 一方、メイを作った際に矯太郎が参考にした女優は当時28歳。

 自分よりも少し若い女性と、一つ屋根の下で暮らしているという状況ではある。


 何があってもおかしくないと思うかもしれない。

 だとしても、その赤くなった顔の理由は、破廉恥な関係性を想像しただけではなさそうだ。


 つまり、この女性はどうやらヤーゲンに想いを寄せているのだろう。

 それを見透かしたうえで、メイは煽っているようにすら見える。

 ほら、今でもヤーゲンの肘のあたりの服を摘まんでみたりして。

 本当に性格悪いロボットだと矯太郎はため息をついた。


 流石に初対面の女性を煽って遊ぶのは良くないと感じた矯太郎は、助け舟を出す事にした。

「主人は私だ。メイにはヤーゲン殿のお宅の家事や掃除を任せている」

 などと、主人らしく振舞うために、ちょっとした咳払いをしてから発言する。

 

「なっ……何よ、ただの下働きじゃない……」

 関係性をはっきりさせたことで、シャンディという女性も少し落ち着いた様子を見せた。

 それでも腕組みした態度を崩さないのは、心を許すつもりはないという姿勢の表れか。

 

 メイの方はちらりと矯太郎を見て余計な事をするなと威嚇したようだったが。

 ここでもめ事を起こしても仕方がないとばかりに主人が頭を振ると、ヤーゲンの袖から手を離す。

 もちろんシャンディの吊り上がった目から放たれる視線は相変わらずきついものがあったが。

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