海と蒼。同じ色の声の持ち主
不安がある。
先程まで、一緒にいた澪の叔母。
人は、見た目で判断してはいけないと言うけど、この叔母に関しては、そのままだと思った。
同じ血が、澪の中に流れているとは、とても、思えない。
あの叔母が、そばにいる事で、危険はないのだろうか。
海には、一抹の不安があった。
澪の哀しい過去の話を聞いた事があった。
まだ、澪とは、親しくなかった頃、
澪から、聞いた。
その視力を失った原因。
事故が、原因だと聞いた。
視神経を痛めたと。
本来だったら、澪の命も危なかった事故だったそうだ。
その頃、付き合っていた澪の恋人は、命を失っていた。
澪を庇うように。
左手だけが、澪の側に残っていた。
どんな思いで、彼女は、事実を受け止めたのだろう。
「私は、その現場を知らないの」
ニュース記事を見る事もできなかった。
目にしなくて、良かったと思う人がいるかもしれないが、
その現場を想像する事ほど、辛い事はない。
想像に限りはない。
どんなに残酷な光景だったのか、
正解はないし、
辿り着く答えはない。
あの日のまま、澪の中で、時間は止まっている。
澪は、受け入れる事ができたのだろうか。
あの時、あの公園で、澪の横顔を見ながら、思っていた。
本当は、澪は、受け入れられていないのではないか。
澪は、その惨事を見ていない。
光を失った瞬間、澪は、その止まった時間の中に、自分を閉じ込めてしまったのでは。
障害者で、いる事を選んでいた。
自分の可能性も、否定し、硬い殻に閉じこもっていた。
彼女の横顔を見つめながら、自分も開けない未来に葛藤している姿を重ねていた。
「自分で、自分の可能性を決めつけている・・・僕らはね」
海は、言った。
「どこかで、諦めているんだ」
「え?どうして、そんなに、素敵た色を奏でるのに」
「あぁ・・・バイオリンの事?」
「違う。その声」
「声?」
色って、言った。
不思議な事を言う女性だと思った。
声に色があるって?
「もう、光を見る事はないと思っていたけど、その人の声が、瞼の中で、始めるの。
泡みたいに。広がって、弾けて。とても、綺麗なの」
「色?」
海は、笑った。
初めて聞いた。
「僕の声にも、色がある?」
「あるわ。とても、綺麗なグリーンよ。そう、記憶にあるの。五月の頃の若葉の色。」
「若葉色?」
「笑わないで、なんて言うか、生命に満ちた色」
「それは、YouTubeの音も」
「えぇ」
海は、携帯を取り出した。
「教えてくれる?どんな色なのか」
海は、澪にどんな色が、見えるのか、説明を聞くのが、楽しかった。
あの公園での日々。
あの時、聞いた海の声の色と重なる人が、現れた。
「海に、似ている・・・」
弾ける淡い声の色。
海の過去に何か、あるのかもしれない。
澪は、少し、蒼の事が知りたくなっていた。




