彼女は、年上
「一度、話したいと思っていたんです」
そう言って、蒼は、何か、飲み物を準備すると言って、ミネラルウォーターを持ってきた。
「やっぱり、お水が美味しいね」
何となく、イントネーションがおかしいが、澪には、鮮明に聞き取れる。
瞼の中で、蒼の言葉が、鮮やかに弾ける。
「あの、うるさい人が叔母さんなんて、がっかりです」
「ごめんなさい。それでも、叔母が、今の仕事を気持ちよく勧める為には、必要なの」
「いろいろ義理とか、大変ですよね。無駄が多い」
「話って、叔母の事?」
「まさか」
蒼は、大袈裟に肩をすくめる。
「日本にいる間、お世話になるようにって、母に言われたので、契約は、するつもりです」
「それなら、ありがたいわ」
澪は、契約書を取り出そうと、バックを取り出したが、それには、自分以外でないとできない事を思い出した。
「それは、日をあらためて」
叔母が、嫌いと言うなら、後輩に頼まなくては、ならない。
機嫌を損ねないといいが。
「もう一つ」
蒼が、一番、気になった事だ。
「お付き合いしている人はいるの?」
「え?」
突然、年下の男性に振られて、澪は、驚いた。
「何を急に?からかわないで」
「いやいや・・・失礼。目の見えないモデルで、活躍している人が、どんな人なのか、興味があったんだ。どんな人で、どんな生活をしているのか」
蒼は、携帯を出してみせた。
「いろいろ、見ていたら、昔のインタビューに辿り着いて・・・。多分、化粧品のCMかな」
澪が、初めて、自分の会社のPR以外で、出演したCMだった。
あの頃は、海と離れて、別々の道を選んだ辛い時期だった。
海は、芸能界へと去っていった。
「影響を受けた人がいるって話してたの、覚えている?」
話す事で、気持ちに整理をつけていた。
違う世界にいても、メディアに晒される世界で、どこか、向こうに、海が見ていてくれる気がしてがむしゃらになっていた。
「覚えていないわ」
澪は、思っている事と反対の事を言ったが、それは、蒼の耳に届かなかった。
「もう、いい加減に、準備してくださいよ!」
蒼に声がかかって、
「仕方がないな・・・」
ため息をつきながら、海のバイオリンケースを持ち上げた。
「お姉さん。また、会おうよ。1人で、会ってくれないなら、あの叔母さん連れてきてもいいよ」
「あ・・・あの」
蒼の担ぎ上げたバイオリンケースから、どこかで、嗅いだ事のある、香が流れてくる。
「なあに?」
蒼の声も、そのバイオリンケースも、海を連想させるのだ。
「あぁ・・・あとで」
どうして、海の香りがするの?
そう思いながら、澪は、伝える事ができなかった。
まだ、口にしては、いけない気がしていたのだった。




