血の確執とすれ違い
澪の叔母は、車を裏通りに進ませ、人気のない角で、海を降ろそうとしていた。
「あなたが、澪と逢う限り、また、逢うことになるでしょうね」
「あなたとは、いい関係でいたい」
澪の叔母とは、争いたくない。
海は、心からそう願った。
「シーイって言ったのかしら」
叔母にも、少しは、知識があった。
「浮ついた世界にいた人が、全く、別の世界で、やっていけるのかしら」
「元々、あの世界に興味はなかったので」
叔母は、海の端正な横顔を見ていた。
「バカにした言い方するのね」
「バカにしているのは、あなたでは」
「あなたみたいな人が、たくさん出てきて、消えていく。あなたも、その一人なのよ」
「誰かの記憶に残れるなら、方法は、それ一つではないと思いますけど」
「あなたの言う、誰かとは、澪の事ね」
叔母は、海の事がどうしても、引っかかっていた。
持っているバイオリンケースが気になる。
弾いている姿が、誰かに似ている。
シーイと聞いて、どこかで、見た記憶と混合しているのかと、考えた。
ただの素人にも、見えない。
「澪なんだけど」
叔母は、言うべきか、悩んだ。
「あなたでは、彼女を幸せに出来ないわよ」
「大きなお世話です」
「澪は、うちの会社の大事な跡取りよ。確かに、目が見えない障害もある。けど、しっかりした、夫を見つけてあげるつもり。それに」
「それに?僕は、彼女を束縛するつもりはありません」
「あなたは、知らないと思うけど、澪は、誰の事も、好きにならないわよ」
「関係のないあなたに、言われる筋は、ありません」
車が、止まったので、海は、降りようとしていた。
「僕達が、納得すれば、どんな形でもいいので。口出ししないで」
バイオリンケースを、手に取ると、叔母の目線が、ケースに注がれているのに、気がついた。
「それは?」
叔母が、何かに気づいて、止めようとしたが、海は、とうに車を降りてしまった。動き出した車内で、叔母は、思わず、振り向いていた。
「あれは?」
蒼のバイオリンケースに似ている。
だけど、さっき、控え室にいた蒼は、同じバイオリンケースを持っていた。
「似ている」
瞳の色も全く、違うけど、バイオリンを弾く時の、わずかな癖や後ろ姿が、蒼と重なる。
「まさかね・・」
そう、蒼を真似たに違いない。レプリカよ。
叔母は、蒼に追い出された腹立だしさもあったが、強く嫌われた訳ではないと信じていた。
後で、ご機嫌伺いに行こう。
「ねぇ、その先のフルーツショップに寄って」
蒼の好きなシャインマスカットを届けよう。澪を迎えに、行かなきゃだし。
叔母は、海のバイオリンケースの事は、しばらく忘れていた。




