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亡き父親の面影

蒼は、自分のバイオリンの代わりに入っていた古ぼけたバイオリンを見ていた。

年代を感じるが、綺麗に手入れされていた。

「随分、丁寧に手入れしているんだ」

古くて、いったいいつの物かは、わからない。

ただ、持ち主が、大事にしている事はわかった。

それにしても、気になるのは、ケースにあるサイン。

「S」

偶然なのか、自分のバイオリンケースと同じ場所にある。

ケースだけなのか。

そう思ったが、中に入っているバイオリンは、地味でも、いい値段の物である事に、間違いはなかった。

弾いてみようか。

蒼は、思った。

どうせ、たいした音色は、出せないだろう。

蒼は、たかを括った。

が、

弾いてみると、それは、予想を上まった。

音色が、思ったより良い。

それに、初めてとは、思えないほど、手に馴染んだ。

「えぇ?」

なんだろう。この感覚。

蒼は、このバイオリンで、ライブに出るしかないと思っていた。

慣れないバイオリンで、出るのは、不安があったが、これなら、行けると、思い始めていた。

「間に合わないよな」

そう思い、携帯を見つめた。

先ほど、逢った榊とその娘が、思い当たる所をあたってくれると言っていた。

多分、あの花屋。

父親の墓に送る花を選びに立ち寄った。

記憶を辿る。

あの店に居た客達。

ライブの出演者に送る花を買い求める女性達。

年配の親子。

バスケットを持った女の子。

そして、若い男性。

確か、似たようなケースを持っていた。

後ろ姿しか、見ていないが、線の細い男性だった。

多分、その時だ。

この手入れされたバイオリンをその人も探しているだろう。

榊さん達が、見つけてくれればいいが。

そう、思った時に、携帯が鳴った。

「見つかった?」

思わず、葵は、聞いた。

「それが・・・」

萌は、重い口調だ。

「急に、父が、持病の発作を起こしてしまって」

心臓が悪いのは、聞いていた。

海外での不摂生が祟って、狭心症を患っていた。

「急に、具合が悪くなって、病院に来ているの」

「そう・・・なんだ」

どうやら、このバイオリンで、出演するしか、ないようだ。

「・・でね」

躊躇いながら、萌が切り出した。

「パパが、何か、言いたい事があるみたいなの」

「言いたい事?」

「よく似ている人を知っているみたいなの」

「似ている人?って・・・誰に?」

「蒼君、お兄さんとかいなかった?」

「お兄さん?僕に?」

葵は、心臓が飛び跳ねるの感じた。

「いや・・・僕は、一人っ子だけど・・」

「そうよね・・」

「どういう事?何を根拠に?」

「聞き出そうとしたけど、もう、眠ってしまったの」

自分に、兄がいる話は、聞いた事はない。ただ・・・。母親と出会う前に、父親には、恋人がいた話を昔、聞いた事がある。母親は、その陰に、心を悩ませていた事があった。一緒にいても、心は、どこか、遠くにあるようだと。

「話、聞きたいです」

もう、バイオリンの事は、どこかに、消えてしまっていた。

もしかしたら・・・。

蒼の心は、揺れていた。

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