イニシャルが結びつける謎と答え
目の前にあるのは、僕なんかには、手の届かないバイオリンだった。
「もしかして・・・なんだけど」
花子が、唾を飲み込んだ。
「取り違えてない?ケースなんて、みんな同じだし、どこかで、手を離した?」
「手から離すなんて・・・」
僕は、考えて
「あ・・・」
声を上げた。
「その花束!」
そう言うと、花子と顔を見合わせた。
「ライブ会場のそば!」
「無くなったと思って、困っているんじゃ?」
「確かに」
僕のバイオリンは、どこにでもある物。いや、僕なりに大事なバイオリンだが、ここにある物は、格段に良いもので、プロでなければ、持てない代物だった。
「届けなきゃ・・」
「そうね。届出していたら、間に合わない。会場に持って行った方がいいわ」
僕は、花子にケーキを渡しそびれた事に気が付いた。
「また、別の日に」
花子も慌てて席を立った。
とはいえ、カフェの中も、そこそこ混んでいて、周りの空気が変わりつつあった。
「?」
「海。周りの子達が、気付いたんじゃない?」
僕は、席を立つと、周りの目が僕に、向けられている事に気がついた。
「やっぱり、引退したと言っても、ネット上に情報が残っているから、事実上、引退じゃないんだよね」
花子がため息をついた。
「仕方がないよ。そもそも、ネット上に、飛び込んだのは、僕だったし」
寧大との悪ふざけだったけど。
「寧大は、いつも、あなたに迷惑をかけてばかりだったわよね。離れられて、良かったのよ。あなたも、私も」
花子は、キョトンとしている彼を立たせると、
「海をガードして、出ましょう。これ以上、余計な事に、巻き込まれたくないし」
自分とのスキャンダルで、僕に、迷惑を掛けると思ったのか、花子は、彼の腕に絡みついた。
「早く、バイオリンを届けて」
「わかった」
中のバイオリンが、変わっていた事に、驚いたのは、間違いないが、ケースに同じサインがある事が、一番、驚いた。
ケースだけ、どこからか、購入したのか。
僕のバイオリンは、亡くなった母親が、残した物だった。
「S」のイニシャル。
最初、僕は、母の名前を彫った物だと思っていた。
翔子。
母の名前。彫ったのが、そうではないというのか。
だとしたら・・・。
これは?
渡したら、その謎は、解明できるのか。
きっと、この持ち主は、
あの噂の若いバイオリニスト




