表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/173

過ぎ去った日々を、思い出させる

榊は、時間を気にしていた。

何度も、スマホウォッチを見比べて、唇の端を噛み締める。

「遅い」

変わらず、時間には、ルーズ。

まぁ、仕方がない。

まだ、帰国して、月日が経っていない。

海外での、自由な時間を過ごしてきた彼には、時間通りに動くこの国は、肌に合わないだろう。

「パパ。顔つき怖い」

付き添いの萌が顔を顰めた。

「パパは、時間には、厳しいの」

榊は、ムッとした。

どうしても、逢って欲しいと連れてこられたカフェで、萌と口喧嘩しそうになる。

「海外で、知り合った子が、今度、日本に帰ってくるの。パパの好みそうな男の子よ。将来有望。間違いなし」

萌が、久しぶりに熱く語るので、そこまで、言うならと、逢う事にする。

「時間に遅れるのは、許せないなぁ」

「しょうがないでしょ。彼は、海外の生活が長いの。一時的に、日本に戻って来ただけよ。逢う機会を作ってあげたのだから、感謝してよ「

萌にピシャリと言われて、榊は、口を曲げた。

「だいたい、時間も守れないバイオリニストなんて、パパは、嫌だな」

「細かいこと言わないの。日本で、大人しくしているパパが、会える人じゃないの」

「はいはい・・・」

ムッとした榊の目が捉えたのは、こちらに真っ直ぐ、歩み寄る少年の姿だった。

「え?彼?」

真っ直ぐ、歩み寄る彼は、少し、灰色の瞳をし、淡い栗色の髪をしていた。

「あぁ・・」

午後の日差しを受けて立つ姿が、誰かと被った。

「彼は・・・」

「ね。似ているでしょう」

榊の記憶の中で、少年の姿が重なった。それは・・

「海?」

「そう・・・パパも、そう思う?」

萌が笑った。

海外遠征で、この少年と知り合った。近いうちに、日本に来ると知って、萌は、榊を含め逢う約束をしたと言う。

彼は、ドイツ人の母親を持つバイオリニストだった。

「蒼だって」

ハーフと聞いて、何語で、会話をしたらいいのか、口篭った榊に、萌は言った。

「父親が、日本人らしいから・・・少しなら、日本語できるそうよ」

「そうか・・・」

榊は、生唾を飲み込んだ。

どこかで、この少年を見た事がある。

萌よりも、遥かに若い。

天才とも言われた少年。

その出生は、定かではないが、あの榊のよく知っているバイオリニストを思い出させていた。

「まさか・・・」

そんな筈はない。

海は、生粋の日本人だ。

だけど、この少年とよく似ている。

この少年と海は、あの遠い日のバイオリニストを思い出させる。

それは、海外で、知り合った。

若くして、亡くなった友人。

ショックで、何もかも捨てて、逃げ帰った榊。

「萌。彼は・・・」

「パパが好むと思って、声をかけたの。だけど、まさか、海に似ているなんて・・・意外だった」

「確かにそうだけど」

蒼は、近寄ると笑顔で、右手を差し出した。

「こんにちは。挨拶してもいいですか?」

笑顔と挨拶がチグハグな少年だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ