過去がしがみついてくる
悪い噂が、澪の耳にも届いていた。
自分が力を貸す事ができればと思っている。
サロンに始まり障害のある人達の雇用問題に、取り組みながら、澪の会社は次第に、名前を知られるようになっていた。
自分もモデルを務めるが、新たに、視覚障害のモデルを雇う事になっていた。
もちろん、視覚障害だけに、とどまらず身体に、下肢や半身に障害のある人達の雇用も始めていた。
雑誌でも、取り上げられ始め、父親の会社も、澪の意見を取り入れ、雇用の改革をしていた。
女性誌で取り上げられる事も、増えていき、日々の生活に追われながら、海の事を忘れる事は、なかった。
「芸能事務所を立ちあげる?」
また、澪は、新たな事業に挑戦するのか、父親は、思わず、大きな声をあげてしまった。
「もう、十分でしょう?これ以上、手を広げて、失敗したら、どうするの?」
叔母は、この所、よく実家に出没している。
「今迄は、目新しい事業だから、注目を浴びて来たけど、失敗したらどうするの?」
「失敗を恐れたら、ここに、私は、いなかったし、ここまで、来れるキッカケになった人の力になりたいの」
「あら・・・ずいぶん、気になる発言するのね」
叔母は、何かに気が付いたようだ。
「少し、妙な噂を聞いたんだけど」
叔母が、父親の前で、何を言うのか、気になった。
「シーイと親しいって、聞いたんだけど、本当なの?」
「シーイって、誰だ?」
叔母の発言に父親が、声を上げた。
「ネットから、有名になった歌手ですよ。友人の借金の為に、仕方なく、デビューしたって、話ですよ」
「何だ。その話は」
少し、父親は、不機嫌になった。
「まだ、懲りてないのか?」
その言葉が、胸に刺さる。
叔母は、意地悪い声になる。
「お兄さん、そういう言い方、澪が可哀想よ。昔の事、忘れたみたいじゃない?」
「忘れる様な事じゃなかっただろう」
父親の声が、どす黒く、渦巻いている。
感情的で、底には、怒りがこもっている。
「澪を危険な目に合わせた上に、・・・」
「やめて!」
父親の声を、澪の叫びが遮った。
「その話は、もういい」
思い出したくない。
あの日の事を、振り返ると、闇の中で、囁く声が聞こえる。
「澪・・」
鼻をつく血の匂い。
何かが、焦げる臭いと煙。
あの日、自分は、光を失った。
それ以上に、失った物は、多かった。
「その話は、聞きたくない」
澪は、言葉を詰まらせ、社長室を後にした。
どうして・・・叔母は、すぐ、過去の話を持ち出すのだろう。
何かと、会社の話に口を挟む。
母親が、経営に無関心なのをいい事に、自由にしている叔母。
あの日、あの車を持って来たのも、叔母だったではないか・・・。
「私は、関わっていない。澪は、事故で、頭を打ったから、記憶が混乱しているだけよ」
澪の病床で、叫ぶ、叔母の声を、遠くに聞いている。
事故は、叔母が、絡んでいる。
悔しいが、何の証拠もない。
海を助け出すのは、自分、1人で、行おう。
家族は、当てにならない。
澪は、一人、自宅を出て行った。




