表現できない、この想い
突然の決別宣言を、寧大は、各テレビ局にFAXしていた。
「もう、大丈夫だから」
借金は、自分で返せると言う。
「最初は、海のツケ添えみたいな存在だったけど、俺だって、できる事が増えていったんだ」
あながち、それは、本当の事で、そこそこ寧大の作品も、この世に出ていた。
「俺の為に、犠牲にならなくていい」
あとで、知った事だが、寧大は、僕を餌に、有名な歌手と懇意になろうとしていた。
僕は、馬鹿みたいに、寧大を信じていた。
シーイが生まれたのも、寧大が居たお陰だったから。
僕と寧大は、目指すものの違いや、僕の喉の不調という事で、休業宣言の後、卒業する事になった。
僕らの音楽に対する考え方の相違という事になっている。
それは、確か。
歌は、僕の表現する方法の一つ。
だけど、
僕が、一番、伝えたい事は、言葉にならない事だらけで・・・。
榊さんの娘さんとの演奏シーンは、YouTubeでも、流され、あっという間に閲覧数を伸ばしていった。
「軽い感じの歌い手だと、思っていたのに」
オフの日に、カフェで、僕の噂話をしているお姉様方を見かけた。
「芸術肌だったんだね」
そう言われると、嬉しい。
強制的に歌う世界から、僕は、また、演奏者に戻った。
一時的に、僕の実家(・・・と思っている)は、人の往来があって、賑やかだったけど、次第に人の関心は、他の人に移っていった。
ちょっとだけ、現れて、消えていった僕に、関心を持つ人は、少なくなっていった。
次第に、普通の生活に、戻れる。
榊さんの、強い希望で、バイオリンとピアノのセッションする事が、増えていった。
僕の前に、現れる萌さんは、いつも、目に鮮やかなドレスを纏い、軽やかにピアノを弾いていた。
同期の花子を彷彿させるテクニック。
こうも、似た女性が集まるなんて。
音楽に関わる人達は、似ているのだろうか。
ふと、カフェの窓に貼られたポスターに目が留まった。
新しい化粧品のポスターだった。
「あ・・・」
懐かしい姿が、そこにあった。
僕が、別の世界に閉じ込められても、忘れられなかった女性。
澪。
今、君は、どうしている?




