コントロールできない嫉妬
これは、嫉妬なのか。
澪は、不安だった。
自分の知らない所で、海が、女性と楽しそうに演奏している。
自分は、演奏なんて、できない。
かろうじて、歌を歌っても、人並みだ。
彼の側に、居られる彼女に嫉妬した。
「どんな女性なのか、調べて」
葛藤して挙句に出た言葉が、それだった。
知って、どうするのか。
自分に聞いた。
彼を、自由にする為、事務所を立ち上げようとしているのに。
それに、寧大の黒い噂が気になった。
あの時も、異常に海に固執した。
誰も彼も、彼から遠ざけたい。
そう思う自分が嫌だった。
何を焦り、ジェラシーを感じているのか。
きっと、目が見えれば、彼女がどんな人で、彼が、どんな眼差しで、彼女を見つめているのか、知る事ができるのに。
いつになく、心が揺れた。
寧大は、決めていた。
カフェで、歌う筈が、突然、予定が変更になった。
カフェのオーナーの娘と海の、演奏が披露される事になった。
じっと、海を見つめていた。
こんなに、輝く彼を見たのは、久しぶりだった。
自分の借金返済の為に、巻き込んだ。
海のおかげで、自分の名前も売れていった。
この世界の水は、自分に良く合う。
それに、比べて海は、生き辛さを感じているようだった。
遠く、二人の演奏を見ながら、寧大は、一枚の紙に、走り書きをしていた。
「海。話がある」
演奏が終わると、寧大は、彼を呼び出した。
「やっぱり、お前は、歌より、バイオリンの方が合うよな」
「どうしたの?突然に・・てか、今更」
「そうだよね。今更なんだ。海がバイオリン好きなのは、知っていたんだけど」
シーイの歌声に固執していた。
そして、海の才能に嫉妬していた。
「このままじゃ、俺。本当に悪い奴になりそうで」
寧大は、海に一枚の紙を渡した。
さっき、一人で、書き込んでいた用紙だ。
「俺、一人でも、やって行ける。海のお陰で、名前も売れたし・・」
「え?どういう事?」
海は、寧大の渡した容姿に、目を落とした。
「サインしてくれよ。みんなに、FAXするから」
「これって・・」
海は、バイオリンに専念する為、歌手活動を休止する。
そう、書いてあった。
「期間限定の借金返済じゃ・・・なかった?」
海は、寧大の顔を見た。
「いつまでも、俺って、ダメな奴だよな。こんな世界に引き摺り込んで、やばい人に、海を差し出そうとまで、していた」
「何?その話」
「何でもないよ。海。サインしてくれ。俺達、別々に行こう。いつも、お前を利用して、ごめんな」
寧大の申し出に、海は、驚いた。
さっき、バイオリンに触れて、皆の前で、演奏する喜びを思い出したばかりだった。
「寧大・・」
薄々、感じていた。
この世界は、自分に合わないと。
願わくば、逃げ出したかった。
「本当に、大丈夫なのか?」
「心配するなって。俺だって、歌うのは、得意だし・・・時間があったら、また、曲を書いてくれ。得意だろう」
「勿論、そうだけど」
思わず、寧大の顔を覗き込んだ。
「本当に、ごめんな。お前に嫉妬していた。そして・・・自分以上に・・」
これ以上は、言わない事にした。
黙って、サインするように、指で、なぞって、海の肩を叩いた。
海。大好きだよ。
本当に、利用してごめんな。




