手が届きそうになると、すれ違う
澪は、自分がモデルを行いながら、新たな挑戦を考えていた。
「止めなさい。僕は、反対だ」
何でも、やってみなさいと言っていた父親が珍しく反対した。
「あら、小さな事務所なんでしょう。やってみたら、いいんじゃない?」
珍しく父親の妹。叔母が賛成した。
「失敗しないでね。あなたと兄さんに何かあったら、私が継ぐんだから」
冗談とも取れない発言をし、澪は、吹き出しそうになる。
叔母は、以前から、父親の会社に興味がある。
元々、父親は、その親から、会社を引き継いだ。
叔母も、小さな会社を任されており、医療機器の会社という事もあって、経営は、順調だ。だが、夫の投資癖もあり、多額の借金を抱えている噂もあり、澪は、叔母が嫌いだった。
何かと、自宅に押しかけ、父親の会社に口を挟む。
澪が、モデルを始めた時も、成功を一緒に喜んでくれた。
障害者支援も手伝って、澪のモデル事務所には、何人かの視覚障害者が、登録するまでになった。
だが・・・。
どうも、叔母の行動は、不可解でしょうがない。
信用できない。
澪が、経営の相談に、父親の会社を訪れると、不思議と叔母が現れる。
どこかに、スパイでも、いるような気がする。
「芸能事務所を立ち上げたいなんて、凄いじゃない?」
叔母の鼻息は、荒かった。
「澪ちゃん、出版会社の社長さん達も、知ってるし、メディアにも、顔が繋がるから、いいかも知れないわ。誰と契約するのかしら」
叔母の妄想は、止まらない。
「芸能事務所なんて、できる訳がない。モデル事務所を、続けられるのも、今のうちだ。いつまで、続くか・・」
「視覚障害のある人に、働く場所を与える事は、続けるつもりよ。今、行なっているのが、モデル業だっただけ。サロンのエステだって、今も、昔も変わらない」
澪は、思わず、ムキになった。
シーイの声が変わった。
よからぬ話も、聞いている。
歌の世界で、生きていくのが辛いなんて、矛盾すぎる。
彼の声は、何人もの人を癒す能力があるのに、今の声は、抜け殻だ。
彼を助けたい。
自由に、昔の様に、歌を堂々と歌わせたい。
自分ができる事は、協力したい。
「パパが、協力してくれなくても、私の力でやってみる」
「あら、澪ちゃん。企画室の女の子達だけでは、無理じゃないの?私の知り合いを紹介しようか?」
「結構です」
自分で、糸口を探るだけ。
父親とも、叔母とも揉めて、憂鬱な日を送る中、テレビで、海が、バイオリンを弾くのを聞いた。
ピアノとのセッションだった。
「ここは・・・会社から近い・・」
昼は、カフェ。夜は、ピアノバーだった。
「歌だけでもなく、バイオリンもお上手なんですね」
司会者が、世辞を言っていた。
海の声が弾んでいた。
やっぱり、バイオリンが、彼の支えなんだ。
澪は、思った。
彼は、歌を続けたい訳ではない。
そして、彼と被るように、話す女性の存在が気になった。
彼女の声が、彼の声に絡んでいたのだ。




