自分の手に入らないからって、潰す訳でない
何て、言い訳する?
自分が追い詰められて、採算できなくなった借金の為に手を貸してくれた海。
自分以上に大事な友人だと思っている。
なのに、差し出せと迫られ、自分の身を守る為に、差し出されるのか。
寧大は、自問自答していた。
他に方法は、なかったのか。
逃げる方法は。
上の空になり、海が話し掛けても打ち合わせの間、ずーっと上の空。
話が頭に入らない。
「昔みたいに、街角のカフェで、歌ってもらうのも、いいかと思って」
歌番組の中継の打ち合わせ。
朝の情報番組でも、取り上げられたスイーツを提供するカフェで、商品の紹介もしながら、歌に入ると言う企画。
「そう言えば、海の実家って、お菓子屋さんだったんじゃ・・」
スタッフが声を上げる。
「いえいえ・・。古い和菓子屋で・・配達なんかも手伝ってて。ここみたいな、カフェとは、全く、違います」
「ここは、カフェだけど、夜になると、バーに変わるらしいですよ。今、流行りの。何でしたっけ、ピアノバーを手掛けていた・・・そうそう、榊さんのお店です」
「榊さん?」
海の表情が変わった。
あの日に、運命が大きく変わった。
「確か、後から、顔を出すって・・」
スタッフが辺りを見回すと、カフェの奥から、覗き込む女性の姿が見えた。
あの時は、真っ赤なドレスを着ていたが、グレーのスーツに身を包んだ、榊の一人娘、萌の姿だった。
「あ・・」
海と目が合うと、萌は、軽くお辞儀し、気がついたスタッフが、側へと誘導してきた。
「今日、お父様は?」
「スケジュールが立て込んでいて、来れないので、代わりに私が頼まれました」
話しながら、横目で、海の顔を見つめる。
「久しぶりですね」
「あの時、以来・・」
二人は、顔を見合わせる。
「え?二人とも、知り合いなの?萌さんは、ピアニストと聞いていたけど、シーイもピアノを弾くの?」
スタッフは、驚きの声を上げる。
「シーイは、ピアノじゃなくて・・」
萌は、言ってもいいか?と、目で話しかける。
「バイオリンを弾いていて・・・オーケストラを目指していたんです」
今まで、スタッフには言っていなかった事を口にした。
「バイオリンをとるか、悩んでいた時期もあって」
「歌も、いいと思いますけど。私は、彼のバイオリンが好きなんです」
突然の萌の言葉に周りが、一瞬、凍りつく。
「え?それって?」
スッタフが、慌てるのを、側で、聞いていた寧大が、止めに入る。
「バイオリンがって事だよ。はやとちりするなよ」
突然、現れた萌に不快な様子だった。
花子や、澪。そして、萌といい、どうして、シーイの周りには、女性が群がるんだろう。
寧大は、萌の様子を伺っていた。
自分の方が、海と長くいるんだ。
嫉妬にも、似た感情が湧き上がってくる。
誰にも、海を取られたくない。
だけど・・・。
彼を潰してしまう事は、自分には、できない。
「シーイ。海は・・・歌よも、バイオリニストがあっていると、俺も、思います」
萌との対立を避け、援護する発言をした。
「期間限定なんです。俺達。シーイ・・海とは、卒業すると思います」
萌と海は、驚いて、寧大の顔を見るのだった。




