光を感じたい。久しぶりに願う事
ふとした思いつきの提案は、澪の生活を変えていた。
僕が、知ったのは、随分、後の事。
彼女の失った物を数えれば、たくさんある。
けど、できる事を挙げていったら、それより、多い事に気が付いた。
彼女は、僕が居なくても、十分にやっていける人なんだと思う。
一人で、公園で、演奏していた僕と何度、すれ違っていたか。
彼女は、視力を失った可哀想な人ではない。
芯の強さを兼ね備えた柔和な人。
確かに親の財力があるかもしれない。
だけど、失った者を後悔している弱さを感じる事はない。
前へと進もうとする力。
失った視力と引き換えに、授かった音を見る力があるからではない。
生きようとする力だ。
「先輩、悲しい過去があるんです」
彼女の失った大事な者の一つが、恋人だったと言う。
光に包まれた彼女は、どんな姿だったのか。
その恋人に、嫉妬を感じながら、彼女の苦悩を知る事になるのは、ずっと、後だった。
澪は、モデルとして、一人、歩き始めていた。
僕の送った歌は、陽の目を見る事もなく、携帯に残ったままになっていた。
僕を忘れてしまったのか、
彼女からの連絡がないまま、時間だけが流れていった。
僕は、不本意ながら、スポットライトを浴びる事になっていた。
歌を歌う為に、僕自身の印象が大きく変わる事に抵抗があった。
僕の表現したいものが、そこにはない。
「遠回りする事もあるよ」
寧大の言葉は、少しも、慰めにならない。
僕の求める芸術性は、そこにない。
純粋に、バイオリンを求める心。
「期間限定だから」
剣崎さんとの約束は、期間限定。
寧大のある程度の借金を返したら、僕らは、解散する。
それまで、いろんな場所で、歌っていくだろう。
澪と会う事も避けた方がいいだろう。
「それでいいのか?」
榊さんから、連絡があった。
「名前の後に、バイオリンがついていくようになる。それでいいのか」
「そう言われても、いいと思っています。本当に、才能があれば、最初は、そう言っていた人も、認めてくれるから」
「バイオリンだけで、やっていくって、言って欲しかったけどな」
「そう言いたかったです」
本の、お遊びで、YouTubeで、戯れていた事を後悔する。
「本当に、バイオリンに専念したかったら、連絡してくれ」
「はい」
榊さん。僕は、必ず、バイオリンで、食べていきます。
それまで、待っていて下さい。
「ごめんな。海」
寧大が、心の底から謝っているとは、思えなかったけど、このまま、見捨てる訳にはいかないんだろうな。
彼の才能を、導くまで、少しだけ、協力する。




