バイオリイストの迷い。
「まさか・・・そんな才能があったとはね」
榊は、娘に見せられたシーイの投稿を見て驚いていた。
「音楽のセンスは、あるとは思っていたが」
「ね・・・ちょっと、普通のバイオリニストとは違うなって、思っていたの」
「私の娘は、そんな先見の目があったのかな」
「もう、聞いていて感じなかったの?パパ。耳障りのいい声をしていたわ」
「そうか・・・バイオリンしか、興味がなかったからな」
「彼は、入団テストに落ちたから。パパが、拾ったって聞いたわ」
「落ちた?」
榊は、笑った。
「落ちたんじゃない。落としたんだ」
「まさか?」
榊は、頷いた。
「大勢の中の一人にするなんて、勿体無いよ。僕が、育てようと思った」
「パパ・・・彼は、バイオリンで、やって行こうとしてるって聞いたけど」
「そう、期待していたよ。バイオリンをどれほど、大事にしているかって」
遠い日の思い出が蘇る。
バイオリンの為に、全てを捨てた男の後ろ姿を。
「パパ。彼を諦めていいの?」
萌は、海の事が気になって仕方がない。
バイオリンだけでは無く、シーイの歌声を知ってから、余計に気になっていた。
「私なら、バイオリンだけでなく、ピアノと一緒に歌を披露してもらいたい。彼を手放したくない」
「だけど。萌。我々は、彼と契約しないって、決めただろう?今頃、彼には、たくさんの事務所が押しかけているさ」
「パパは、彼にバイオリンを弾いて欲しいんでしょ」
「そうだよ。」
「弾いてもらおうよ」
「そうだな」
そう、返事をしながら考えた。
海が、これから、巻き込まれる事に。
「せっかくの才能が、壊れる前にだよ。パパ」
萌が、意味深に言っていた。
本当なら、澪の撮影を最後まで、見届けてから、帰りたかった。
澪の後輩達が、帰路の準備を行い、一時的に、通行止めが解除されたのを待って、僕と寧大は、人早く、帰る事にした。
それは、寧大の打ち明けた借金の事だった。
「助けてほしい」
僕が、肩代わりできる借金ではなかった。
寧大は、投資が好きで、最初は、順調だったが、途中から、負けが続き、返済できないまでに、膨らんでいた。
それに輪をかけたのが、僕と同じ声を持つ音夢の一件だった。
有名な俳優の娘さんだった。
未成年を連れ去ったとして、立件は、免れたが、慰謝料を請求される始末となっていた。
「だから・・・女には、気をつけろって」
「気の迷いだ。お前と同じ声だから、興味があっただけだ」
寧大の屈折した愛情は、僕に向けられていたが、寧大の借金問題を解決するのが先だった。
「会って欲しい人がいるんだ」
「会って欲しい人?」
それは、音夢の父親だと寧大は言った。




