霧の中のモデルとマイナスからのスタート
衣装も準備も整わない中で、僕の単純な思いつきの中で、澪の撮影は、始まっていった。
「書けるのか」
寧大は、僕の作業を邪魔していた。
歌詞をまとめると
「それは、違うと思う」
曲を考えると
「シーイらしくない」
結局、まとまらなかった。
何より、澪の後輩達に、
「生で、見ないんですか?」
そう言われると、籠って、作詞活動するのが、困難になっていた。
「寧大。お前は、僕の邪魔をしたいんだな」
「そうだよ。お前は、俺以外と音楽活動は、できない」
真面目に言われて、その場から、逃げ出した。
寧大は、何を考えている?
澪の撮影現場に、慌てて駆け出す僕を、寧大は、目で追っているのを感じた。
「自然に撮れそう?」
僕は、撮影クルーに声を掛けた。
衣装も、多分、自前なんだろう。
短い髪と、長い裾のワンピースが、そのまま、十分に美しかった。
何度も、動線を確認し、撮影をする。
いろんな角度で。
目が見えないなんて、誰が、思っただろう。
その遠くを見つめる視線は、光を映す事はないが、誰もが、瞳の奥に光を感じていた。
「何処に視線を投げたら、いいのかわからないの」
澪が、事前に言っていた。
「シーイが、歌って」
「みんな、いるのに?」
「いつも、歌っていたでしょう?」
「そうだけど、改めると恥ずかしい」
2人の会話に、後輩が割って入る。
「澪さんに、いい表情してもらう方法ですよ」
「あ・・・」
澪が、少し、赤くなった。
「じゃ・・・歌えばいいの?」
僕も、改めて恥ずかしい。
遠く撮影現場から、離れて、僕は、小さな声で、口ずさむ。
澪の耳に届けばいい。
僕の声が、色で、届く。
この景色と同じ色なら、澪の表情も和らぐだろう。
澪の一人立ちは、これからなんだから。
僕は、このまま、澪が離れて行ってしまうそんな気がした。
誰かが、支えなければ生きていけないで有ろうと思われる障害者。
澪は、そんな事、関係ないんだ。
元々、持つ芯の強さがある。
僕の歌調が、変わったのだろうか。
遠くから、見る澪の表情が少し、変わった気がした。
僕の歌に力があるんじゃなく、歌声を色で見る澪に能力がある。
僕の方を見る澪の姿。
撮影は、うまく進んでいくだろう。
僕は、さっき、寧大が言った事を思い出していた。
「真剣にお前をデビューさせたいって会社が幾つか、来ているんだ。条件は、俺が出した。一緒にやらないか?」
「一緒に?」
「バイオリンが飽きられられないのは、わかる。でも、これは、きっかけなんだ。軌道に乗れば、バイオリンをやればいい。シーイの力で、のし上がるんだ」
「前も言ったけど、別に道を歩くんだよな」
「海。ごめん。俺、借金がある。どうしても、お前の力が必要なんだ」
寧大は、僕を強く抱きしめていた。




