盲目のモデル誕生
僕は、迎えに来た女の子と、澪達のいるコテージへと向かって行った。
湿地帯の向こうの林の奥に、コテージはあった。
「もう、室長ったら、待てないみたいです」
女の子は、振り返って笑った。
コテージの庭で、立ってる澪の姿が見えた。
淡いクリームのワンピースに、グリーンのカーディガンを羽織った帽子の女性がそうだ。
低い門の上に、肘を乗せ、どこか、遠くを見つめる彼女の姿は、ハッとするほど、綺麗だった。
目は、光を失っているが、そんな事は、僕にとって、二の次だった。彼女は、健常者と変わらない。というか、それ以上に人だった。
何も、映し出さない瞳は、それを見つめ、両耳は、まるで、子ウサギの様に、周りの空気を感じ取っているに違いない。
「あぁ・・・そうだな」
「何を見惚れているんです?」
女の子は、吹き出した。
その声に、遠くの澪が、気付いたのか、こちらに向けて、手を振った。
「見惚れたなんて・・」
「室長!こっちでーす。今、室長に見惚れていましたよ!」
女の子が、大きな声で叫ぶので、僕は、慌てた。
「いや・・・・そうでなくて、あの」
僕が、止める間もなく、女の子は、駆け出し、コテージの門に飛び込んだ。
「早かったわね」
澪は、微笑み、僕は、赤くなったり、急に走り出したので、息切れして、青くなったりした。
「あのね・・室長」
女の子は、告げ口しそうだった。
「いや・・・そうでなくて、あの」
僕は、すっかり不審者だ。
「サロンのCMの件だけど、僕が出る必要もないなって、思って」
「え?正体が、暴かれたからですか?」
女の子は、言った。
「そうなの?もう、いろんな所から、話が来たの?」
寧大の暴露事件の余波が、来ていると思われていた。
「それは、関係なくて」
僕は、喉がカラカラだった。
それなのに、頭の中を、閃いた歌詞が流れていく。
「澪が、CMに出たらどうかと思って」
「は?私?」
澪は、驚いた。
「室長。そうですね」
女の子も同意した。
「そうだよ。出てダメな話は、ないって言うか、どうして、今まで、気がつかなかったんだろう」
澪は、その辺の雑誌のモデルより、人目をひく。だけど、いつも、盲導犬や白杖を持って、移動している姿だけが、先行して、誰も、気づく事ができなかった。
彼女をモデルにすれば、良かったのだ。
「ちょっと、待って。無理よ」
「どうして?一人で、会社を始めるんだろう?親の力も借りないで、何でも、自分で、やってみるんだろう?」
「そうだけど・・・」
そんな展開を誰も、考えてみなかった。
女の子も、目を輝かせていた。
「そうですね。考えてみましょうよ」
「そうだよ」
僕は、そう言って、リュックから、メモを取り出した。
「何を始めたの?」
気配に気づいて、澪が聞いた。
「いろんな言葉の渦ができてね。メモしないと、忘れそうだ」
僕は、メモをとった。
「携帯じゃ、ダメなんですか?」
「見られると、恥ずかしい。それに、白い紙の方が、閃くんだ」
走り書きする僕の手を澪が、触れる。
「早速、新曲?」
「うん」
あのコテージの庭に佇む、澪の姿が、想像力を掻き立てた。




