その栄光を僕は、望んでいない
一晩のうちに、何が変わったのか。僕は、後で知る事になる。
澪と未来の事を語り合った。
澪は、会社の中の一部分だったサロン部分を独立し、会社として立ち上げる夢を語った。視覚障害があっても、変わらず、挑戦したいと話していた。全て、条件が揃っていても、僕は、卑屈になりながら、夢を諦めかけていた自分に気づき、本気で、バイオリンへの夢を、決意したばかりだった。それが、一夜明けて、試されようとしていた。
「君は、歌が好きなんだね」
榊さんは、言った。
「僕が、考えているのは、ちょっと違うんだ。歌もいいとは、思うよ。だけど、僕が、必要なのは、バイオリニストなんだ」
榊さんは、僕が、歌を一番に選ぶと思っていたようだ。
「俗っぽいと言ったら、しかられるかな。僕は、時代に流されないレストランを作りたい。それが夢なんだ」
「パパ。それは、違うと思うわ。声も楽器よ。表現の違いなの。シーイの声は、好き。何がいけないの?」
榊さんの彼女は、僕を後押ししてくれた。
「中途半端じゃないか?」
「何が?パパ。シーイの歌声は、素晴らしいし、海のバイオリンの腕は、個性的で、誰にも真似できるものじゃないって、言っていたわよね」
「それは、そうだが。約束と違う」
「パパ!」
「いいんです!」
これ以上、親子喧嘩を聞きたくなくて、僕は、二人の間に、入った。
「また、考えてください。今日は、ありがとうございました」
僕は、軽く、お礼を伝えると、二人の側から、離れた。
たくさんのメッセージが、僕の携帯に届いていた。
かき分けるように、寧大のラインを見つけた。
こんな事態になった理由を見つけたかった。
「逢って話したい」
台風の影響で、道が崩れているのに、無理だろう。
しばらく、僕らは、ここに足止めだ。
と言っても、帰る足もないか。
「どうしても、謝りたい」
そう伝える寧大のメッセージを無視し、過去のYouTubeに目を落とすと、
たくさんのメッセージが届いていた。
そして、最近のアップした内容は、しっかりと、僕の顔が映っていた。
「ハハ・・」
きっと、僕の家に知れるのも、時間の問題だろう。
「真面目に生きろ」
親父。育ての親父が、怒り狂うのが、目に浮かぶ。
「大丈夫?」
澪からだった。
「寧大君。何かとあなたに絡むのね」
「参ったよ。寧大には。奴の気持ちがわからない」
「あなたに執着しているのね。今回のロケも本当は、あなたも、同行する事になっていたの。」
「僕が?」
「寧大君から、聞いていなかったの?行き違いがあって、あなたには、伝わっていなかったみたいだけど」
「結局、近い場所に来ていたけどね」
最近、注目されている関東に近いキャンプ場は、大手のアウトドアブランドメーカーが協賛した事もあり、今、話題のキャンプ場だ。榊さんが、考えたレストランもその一角にある。
澪達の企画室が、目を付けた場所も、近かった。
「契約が、ダメになったのなら、逢わない?」
「そうだね。帰る足も無くなったし」
僕は、澪と待つコテージに行く事にした。




