君は、一人で生きていけると言う
躊躇いがちに、掛けた携帯。
すぐ、澪は、出てくれた。
「あの・・」
お互い気恥ずかしい。
自分達は、どういう関係?
友達なのか、それ以上なのか。以下なのか。
決められない。
シーイの一番のファン。
そう思っていた。
「風、凄いね」
海は、どう切り出したらいいか、わからず、そう、話し出した。
「怖くない?」
「少し」
澪は、答えた。自分が、決心したこれから先の事が、よほど、怖い。
「私も、連絡しようと思っていたの」
澪は言う。
「決意、表明よ」
「何があったの?」
「一人で、生きていくの」
「えぇ?言っている意味がわからない」
澪は、少し、気が強い所がある。視覚障害が、そう、させたのか。元々の気質なのか。一人で、先を歩いて行ってしまう。
「このままだと、私の人生。パパに決められてしまう。自分で、生きていく力がないと思われているから。仕方がないと考えていたの」
「心配しているんだよ」
澪の家柄が、自分とは、全く異なる事は、薄々気付いていた。決められてしまう事とは、一体、なんなのか。
「このまま、結婚まで、パパに決められるのは、嫌。それなのに、仕事や生活まで、世話になっているのは、もっと嫌なの」
「結婚・・・決まられたの?」
今の僕には、結婚のふた文字は、大きすぎる。
「会社も、私も守る方法みたい」
「その人の事は、好きなの」
思わず、聞いた。
「嫌いよ」
そう聞いて、少し、ホッとする。
「いろいろ考えていたの」
携帯の向こうで、澪は、ため息をついた。
「このままで、いいのかって。パパに守られて、全て、与えられて生活しているだけで、いいのかって」
障害のある澪が、自分で、生きていこうとしている事を知り、海はハッとした。
「澪は、勇気がある・・」
僕は、言った。
「僕は、この先、どうしたらいいか、わからず、中途半端に生きている。何を選んだらいいのか、わからない」
「海は、いろんな情報に、惑わされているだけ。なんでも、出来るから。私は、こうして、暗闇の中にいると、自分の事しか、見えないから。」
海は、答えられなかった。
「時々、その闇の中に、光が刺すのよ。それが、いろんな人の声。シーイの声は、特に美しいわ」
「ありがとう」
自然に言葉が出た。
「なんて、甘えない宣言をしていて、なんだけど。自分で、会社をやってみようと思うの。パパからの独立。前から、考えていたの、あの事故が起きる前から、ずっと」
「独立したかったの?」
「そう。ある人と一緒に、そうするつもりだった」
ある人とは、澪の彼の事だと気が付いた。
「パパからの結婚の話があって、考えたの。私が私で会う事に、変わりはないから、自分で、やってみようと思ったの。その決意表明よ」
「君は、凄いよ」
後ろでは、風が強く唸っていた。
「今、どこにいるの?」
「あなたが、聞くとは、思わなかった。シーイとのロケの予定だったけど、シーイは、来れないから、下見だけに変更になっているのよ」
「え?僕は、聞いていないよ。ロケって事は、どこ?」
「Nキャンプ場よ」
「え?僕も、たまたま、そこにいるよ」
「嘘?」
向こうで、澪が、立ち上がった様子が伝わってきた。
「別の仕事の話で、来たんだ。台風が来ているから、急に帰れなくなって・・・」
「逢いたい!」
澪は、大きな声で言った。
「逢って、話したい」
外は、風が渦を巻いている。
「外は、凄いよ。夜も遅い。近くに居るなら、明日でも逢えるよ」
「でも・・」
「風が怖いなら、話を聞くから」
僕は、ベッドの端に腰掛けた。
「これからの、君の夢。話してみて」
僕は、澪の言葉に耳を傾けた。
行動的で、情熱的な澪。
視力を失っても、十分すぎるほど、魅力的だった。




